アイウィル 社員教育 研修日程

コラム『講師控え室』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

2015年9月号「講師控え室 79

 

先日、北陸のお客様の会社を表敬訪問した。

会社のそばまで行くと、社長をはじめ、私が研修を担当した幹部社員がズラリと並んで出迎えてくださった。

この時、その心からの歓迎の笑顔を見て、有り難さと恐縮と、そして少しの不安が心をよぎった。

事務所に入ってその胸騒ぎの理由がわかった。

事務所のテーブルにズラリと碁盤・碁笥〈ごけ〉が並んでいる。社長は青ざめた表情の私にニコニコ笑いながらこう言った。

「ウチの社員に囲碁を指導していただきたいと思いまして、準備させていただきました」

社長は経営者養成研修の卒業生。卒業後も碁会所に通ったり、碁好きの社長連中に鍛えられてメキメキ腕をあげ、初段以上になっている。その社長の指導のもと、社員は囲碁を必修で取り組み、月に一回社内で大会を行っている。

この時ばかりは経営者養成研修で囲碁を教えている小川宏講師を呼んで立場を変わってもらいたいと思った。

私はハッキリ言って弱い。入社して十年以上経つが、なかなか上達しない。年四回囲碁大会を行っているが、先回Cクラスで優勝して次回ようやくBクラスの尻に入れる程度である。主宰の染谷や小川とはもちろん、トップクラスの人たちとは一度も打たせてもらったことがない。

私の正面に社長の右腕の専務、左腕の常務、そしてナンバー4が座った。「三面打ちでお願いします」と言う。

三面打ちとは、プロがアマを指導する時、複数同時に打つやり方である。簡単に言えば一対三の勝負である。私は三人を相手に同時に打たねばならない。目の前の三つの碁盤で、待ったなしの対戦をする。

相手は、自分が石を打ったら自軍二人の番が終わるまで考える時間がある。私はノータイムで打ち込まなければならない。同時に三面のことを考えなければならない。

こう言うとカッコよく聞こえるかもしれない。しかしそんな余裕ある打ち方など全くできなかった。目の前のことだけに必死になり、後ろで腕を組んで眺めている社長を失望させていたことであろう。

何とか三人全員に勝って、面目を保つことができた。

会社にこのことを報告すると、誰よりも主宰の染谷が喜んでくれた。実は染谷は、訪問前社長に私の腕前を聞かれ「弱い」と答えていた。対局があることは知っていた。だが三面打ちは知らなかったそうである。三面とも勝ったことを「快挙だ」と言ってくれた。

囲碁をもっと強くなりたいと本気で思った。(浜中孝之