アイウィル 社員教育 研修日程

コラム『講師控え室』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

2015年10月号「講師控え室 80

 

初心忘るべからず。

「初めた頃の謙虚で真剣な気持ちを持ち続けていかなければならないという戒め」という意味である。

先日、会社出勤をした時に鞄を持ったまま挨拶した。注意を受けた。挨拶をする時は鞄を持ちながら挨拶をしてはいけない。「ながら〈・・・〉挨拶はだめ」と研修で指導する講師が禁を犯す。同じ職場に通っている慣れがあった。知らずに出てしまった悪行動でもあった。

この夏、アイウィルに新入社員が入った。上司、先輩が新人に仕事を教える以上に礼儀礼節、社会人としての基本行動を教えている。その中で私がながら〈・・・〉挨拶。なさけなかった。

一方、良い機会だと思った。新人が受けるような注意をしてもらうことで初心を思い出すことができたからである。

初心忘るべからず。色々と調べてみると、別の解釈があった。「最初の未熟で無様な状況を忘れてはいけない」。

新鮮な気持ちを思い出すプラス観点だけの言葉ではないのだ。むしろマイナス観点の言葉。未熟で無様な自分を思い出させるニュアンスである。

「初心不可忘」を残した世阿弥は未熟だと思い知ることがなければ成長や大成につながらないと考えたのだろう。何年経っても初心を引きずって戒めていかなければならない。

誰もが初めは初心を持っていた。上司や先輩から注意を受け、また挫折し、過ちを正していく。やがて知識、技術、経験が蓄積していくことで過ちが皆無となる。これが進歩と成長である。

ただし、進歩と成長が人によって悪い影響をおよぼす。「私は偉い」と思うようになる。慢心が生ずる。人の言うことを聞かなくなる。かくて成長が止まる。止まるだけでなく歪〈いびつ〉な成長が表われてくる。

会社と仕事に慣れて、新入社員はそろそろ初心を忘れて歪な成長をしていないだろうか。知識技術を得て「私はできる人間だ」と傲慢〈ごうまん〉になっていまいか。挨拶や返事の手抜きはないか。勉強をやめていないか。自分がそうだったので心配である。

世阿弥は三つの「初心忘るべからず」を残している。

一、是非とも初心忘るべからず

一、時々の初心忘るべからず

一、老後の初心忘るべからず

初心は最初の時だけのものではない。たとえ進歩成長しても、各段階においてその時の初心がある。さらなる成長を求めるならば、新人諸君は初心を忘れないことだ。

対して、上司先輩諸君も初心を忘れないように。たとえ仕事を極めた達人の域に達したとしても、それもまた初心となる時点である。人生毎日初心でいきたい。(正木元