アイウィル 社員教育 研修日程

コラム『講師控え室』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

2016年3月号「講師控え室 85

 

NHKホールでクラシック音楽を聴く機会があった。

演奏が始まると私は曲ではなく、指揮者に意識がいった。ラフマニノフのピアノ協奏曲第三番が聴きたくて行ったので、指揮者には無関心だった。名前も知らなかった。

登場したときは小さい人だなというのが第一印象。周囲の演奏者と比べても身長が低く、一六〇センチメートルあるかないか。一見頼りなさそうに見えた。

演奏が始まって十分くらい経つとその印象は変わった。指揮台を所狭しと動き回る。目の前のバイオリンの演奏者に前のめりになって迫る。刀で袈裟切りに切り下ろすかのようにタクトを振り下ろす。その場で飛び跳ねながらタクトを振る。

私はその動きから目を離すことができなかった。

曲のあい間に急いで指揮者を調べた。『広上淳一』、N響の常任指揮者でない。一体どんな人なのだろうか。

プロフィールを見ると“踊る指揮者”と書いてあった。なるほどと思った。

後半が始まり、私は指揮者に釘付けになっていた。静かで穏やかな時はまるで指揮台の上でワルツを踊っているかのようだった。その顔は笑顔を浮かべ、陶酔している。

オーケストラ約七十名、広上淳一の動きにピッタリ合っていた。私は感動で鳥肌が立った。形振〈なりふ〉り構わない“本気”を感じた。狭い指揮台の上で飛んだり跳ねたり、両手をバタバタと動かし一見滑稽だが人を惹きつけずにはおかない指揮ぶりである。

オーケストラは個性の集まり。バイオリン、トランペット、ティンパニーなど、それぞれが全く違う音を出す。その個性を指揮者がまとめて一つの曲にする。一つの楽器がそっぽを向き、ズレてしまっては曲にならない。たとえ出番が少ないティンパニーのような楽器でも、自分の役割を全うしなければ、全体の調和を崩してしまう。

これは、私たちの仕事と同じである。社員一人一人が与えられた仕事に責任を持ち全力で取り組む。どんなに優れ、能力のある人が集まっていても、全員が同じ方向を向かなければ大きい力は発揮できない。バラバラの個性をまとめ上げるリーダーの力量が問われる。自らの意思で全体を統一する。メンバーはその意思に喜んで従う。

広上淳一を見て、指揮という仕事が好きなのだということが伝わってきた。

仕事は楽しくやったほうがいい。好きになったほうがいい。好きだからこそ本気になれる。

私は広上さんを見習って今の研修講師の仕事をもっと好きになり、もっと本気にならなければと思った。(緑川摂也