アイウィル 社員教育 研修日程

コラム『講師控え室』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

2016年9月号「講師控え室 91

 

私の二人の子供が将棋部に入った。特に小学一年生の息子が熱中している。

最近は週末になると祖父母の家に行き、祖父と将棋をするようになった。私の父は強くて、私は一度も勝ったことがない。

ある時、息子が「お父さんと将棋で勝負がしたい」と言ってきた。私は十年くらいやっていなかった。小学校の頃、将棋が好きになり父に教えてもらった。負けることはないだろうと思い、「よしやろう」と始めた。「じじには勝てたのか」と聞くと「うん、僕の方が強いよ」と答えた。なるほど祖父は手加減してやっているのだと分かった。

私は手加減しないことにした。初めての息子との勝負。どれだけ強いのか楽しみだった。手際よく駒を動かす息子を見て、やり慣れていることが分かった。

まず守りを固めていた。私の飛車の正面右側を固めていた。意表を突いて中央を攻めた。開始してから十五分で勝負は決まった。息子は負けた。

勝負に負けた息子はうつむき黙り込んでしまった。私が駒を片付けていると、突然息子は声も出さずに泣き出した。私はビックリした。「なぜ泣いている」と聞くと、息子は下を向いたままで答えなかった。

後で妻に聞くと、お父さんに負けて悔しかった、だから泣いたということが分かった。

私は自分が勝って当たり前と思っていた。しかし息子はそう考えていなかった。勝つ自信があった。本気で勝つと思っていたから負けて悔しくて泣いた。

以前、小学校三年生の娘と将棋をしたことがある。負けた娘は「負けちゃった」と笑っていた。娘は最初から勝つことは考えていなかった。

息子は将棋をどうしているか、妻に聞くと、「お父さんとまた将棋をするんだ」と毎日将棋部で上級生相手に練習していると教えてくれた。

あの時、手加減して負けなくて良かったと思った。負けていたら、圧倒的な差を見せつけなければ、ここまで向上心を持って熱心に取り組まなかっただろう。もともと娘と違って息子は将棋に興味があった。やる気を更に引き出すには、こちらも本気でやらなければ、負けたとき悔しいと思わないだろう。悔しさをバネに次こそはという気持ちが湧いてこないだろう。

研修でも涙を流す人がいる。審査で不合格になり悔しくて涙を流す人、自分の不甲斐なさに涙する人、苦労して審査合格に涙する人。それぞれ涙の意味は違うだろうが、自分自身と真剣に向き合っている人ほど感情が溢れ出すのだ。

私は研修で手加減はしない。本気でぶつかる。年上だろうと女性であろうと。(緑川摂也