アイウィル 社員教育 研修日程

 

染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 358」   染谷和巳

 

 

恐るべしパワハラ風

経営管理講座

 

上司の暴言などのパワハラ防止の社内規定を設けている大企業が五六%に昇るそうである。「このような言動はパワハラになる」と具体例をあげて上司に警告を発している。中小企業経営者も恐れおののき神経質になっている。上司の〝厳しい指導〟は全てパワハラと断罪される時代になった。

 

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生あたたかい風が吹き始めた

 

「上司が鬼とならねば部下は動かず」が出版されたのは平成十二年(二〇〇〇)の二月。

本が売れる売れないは「神頼み、風頼み」というが、出版社も著者もこの本がビジネス書として過去最高の七十万部のベストセラーになるとは露ほども思っていなかった。

当時の六本木の書店主の話。

「開店すると三十代四十代のビジネスマン、管理職になりたてといった人が伏目がちに黙ってこの本を買って行く。同じタイプの人がつぎからつぎへとこの本目当てでやってきて、本を手にして出て行く。ガンバレヨと声を掛けたくなったくらいです。一日百冊売れる本はなかなかないですが、この本はそれが何日も続きました。お化けのような本です」。

当時三十代四十代のビジネスマンは恵まれた人であった。好景気、人不足で会社は高卒大卒の新入社員をもみ手で迎え好遇した。

社員は仕事の実績もあげないうちから人材として認められ、三十歳で係長、三十五歳で課長と部下を持つ管理職になった。

この頃、何もしなくても売れた時代は終わっていた。バブルが崩壊し景気が悪くなり、新卒の就職率が七十%台に低迷、人余りの時代になった。

新米上司は自分が上司にされたように部下にやさしく接し、物わかりのいいところを見せた。部下を動かす時は話し合いと説明説得で行った。

部下は動かなかった。上司の言動をせせら笑った。それでも上司は部下の機嫌をとり部下に阿〈おもね〉った。部下は「あなたに従う気はありません」と言葉や態度に露骨に表した。

上司は胃を病み、胸を痛め、頭がおかしくなりそうだった。そこへ「鬼とならねば」の文字が飛び込んできた。

当時どの会社でも三十五歳前後の前線管理者が部下に甘く、部下に厳しいことが言えず、部下を育てられないことが問題になっていた。「バブル(期に入社した)社員は使いものにならない」と揶揄されていた。

苦労知らずのお坊ちゃま、お嬢さまが初めて人生の危機に直面した。社長から「部下を遊ばせておくんじゃない。しっかり育てろ」と言われてもどうしていいか解らなかった。

この本を読んで考え方を変え、行動の仕方を変えた人は多い。

部下の行動を見て「おかしい、変だな」と思ったらためらわず注意せよ、何回注意しても改めなければあなたの不愉快は高じる。高じて爆発する。それが叱るという行動になる。「感情的になってはいけない。怒ってはいけない、冷静に叱るのだ」といった〝上手な叱り方〟の教えに惑わされてはいけない。大事なのはあなたの〝不愉快の感情〟である。それをストレートに部下にぶつける。部下は傷付く。恨む、嫌う、復讐する。その抵抗を覚悟して叱る。あなたが厳しく叱ってくれたことを部下はいつか理解し感謝する。三十年後、「あの時課長に厳しく叱られた。プライドが傷ついた。この野郎! と思った。反抗もした。しかし課長の言うとおりだった。私は態度行動を改めた。あの時課長がうるさく厳しく言ってくれたおかげで今の私がある、当時の課長が私の恩師です」とまわりの人に話すだろう。

この本に感動して部下に対する言動を百八十度変えた一部上場の製薬会社の本社課長は、業績を上げて大都市の支社長に栄転した。支社長は直接「この本のお陰です。人生が変わりました」と私に語った。

普通ベストセラーは半年一年で終焉するがこの本は毎年一刷二刷版を重ね、異例のロングセラーとしても記録を打ち立てた。

しかし平成二十八年(二〇一六)続いていた重版が途絶えた。以来まだ再版はない。おそらく、寿命が尽きたのだろう。鬼の風が消えて、違う風が吹き始めた。

その風はたちまち強風となって、現在、会社やスポーツ界の指導者に石礫〈いしつぶて〉を投げつけ、〝退場〟を迫っている。

その風は冷たい烈風ではない。戦いの場にはそぐわない、生あたたかい風である。

 

 

 

何でもパワハラで訴える時代

 

平成十三年(二〇〇一)、「パワーハラスメント」という言葉が生まれた。「鬼」の本が出版された翌年である。同時に「個別労働の紛争解決法」が施行された。

労働基準監督署や県労働局に相談コーナーが設けられ、問題を抱えた社員が掛け込んだ。

当時相談コーナーに持ち込まれた案件の一位は三万件以上が「解雇」に関するものであった。パワハラは六千六百件。

それが昨年の平成二十九年度はパワハラ七万二千件と、当初の十倍以上に増え、堂々のトップ。実はこの五年前からパワハラが相談件数のトップになり、年々増加の一途をたどっている。

必要以上に叱責された。怒声をあびせられた。人格を傷つけるいやみを言われた。私用の使い走りをさせられた。一方的に恫喝〈どうかつ〉された。「いやなら辞めろ!」と言われた。「何度言ったら解るんだ。お前はばかか」と言われた。「終業後に上司に飲みに誘われた。それを断ったら冷たい態度でろくに口をきいてくれなくなった」…。

相談の内容は様様だが、係員が会社に出向いて「こういう相談があったが事実か」と事情聴取を行い、事実であれば会社に是正の指導をする。パワハラ会社は労働基準監督署が頻繁に〝指導〟に訪れる。会社のイメージが悪くなるだけでなく、社員の意欲の低下を招き、それが売上減少につながる。

現在五〇%以上の会社が大なり小なり、パワハラの防止対策に取り組んでいる。「パワハラごときに臆することなく厳しく部下を指導せよ」という強気の会社は少数派になった。

ある社長は管理者に「叱り方に注意してくれ。大声で叱りつけるのは内容がどうあれパワハラになる。パワハラを容認する会社は生き残れない」と言った。

産經新聞の「パワーハラスメント」の記事(九月九日)はタイトルが「熱血指導で部下は動かない」であった。

生あたたかい風はパワハラの風である。十年前は「変な風が吹き出したな」と思っていたが、現在は社会を覆う〝空気〟そのものになった。

熱血教師や熱血上司が事情を説明しても「しかしパワハラ」「それでもパワハラだ」と言われれば頭を下げて謝罪するしかない社会になった。

 

 

 

零細企業が生き残る道を模索

 

会社は軍隊に似た組織。軍隊は武力で敵に勝つことを目的としている。そのため敵を殺す。殺人が奨励されるのは軍隊だけである。

軍隊が一般社会の常識と、かけ離れた常識で運営されているのと同様、会社にも平等や個人の自由といった社会常識とは違う常識がある。

そこには上下関係、命令報告があり、存続のための次世代の指導育成がある。この会社の骨格を崩せば会社は生き残れない。今までこう教えてきたがこれからはこうした指導は歓迎されない。社会の常識に会社の常識が負けた。

アイウィルは三十年続いているが、吹けば飛ぶ零細企業である。生あたたかい風、社会を覆う甘い空気には抗し切れない。一人力んで見栄を切っても、お客様にそっぽを向かれたらお手挙げである。

二泊三日、一泊二日の合宿研修を行っているが、朝早くから夜遅くまでの長時間の拘束、「起立、着席」の号令、だらしない態度行動をする研修生に対する講師の注意叱責、「こうしなさい、ああしなさい」という一方的強制、競争心を煽るテストの点数表示、これらはみなパワハラになる。

アイウィルは支持してくれるお客様のために今までの研修はそのまま続ける。しかし時代に即した研修を考えなければならないと思う。なぜなら中小企業の経営者がパワハラに触れたくないと思い、厳しい研修を嫌うからである。

地方から研修所に来る人に〝通い〟は往復時間と交通費がかかる。やはり研修所に宿泊してもらう。研修時間を朝九時開始、夕食で終了、後は自習にする。現在の二泊三日、三十六時間を二十五時間に減らす。その分の内容変更に苦労することだろう。

この改革を現社長が中心になって進めて行く。一年後には柱と骨は変わらないがボディと衣装がソフトな新研修が誕生する。

幸い二年前にできた「有言実行研修」はお客様の支持を得ている。毎月一回年間十二回、朝九時から夕方四時までの一社研修である。パワハラは匂いさえしない。

新しい六ヵ月研修は、内容を初級、中級の二つに分ける(上級は統率力研修がすでにある)。こうした道を行くしかないだろう。