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人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「人と話の交差点 301」  畠山裕介

 

会社より自分を優先した専務

 

-ナンバー2(28)-

 

三〇代の半ば、フリーの身で仕事をしていた。恩義あるかつての上司が会社を興した。

「手伝ってくれ」と誘われ、創業に参加。いきなり取締役の片書きをもらった。

二人で新しい研修を作った。日本で初めての斬新な内容だった。正確には、社長が考えに考え抜いたことを指示どおりに実行しただけ。いつの間にか研修(商品)ができていた。これが実態。

うけた。中小企業の経営者の支持と共感を得た。

講師を雇い、助手を育て、審査員や添削員を採用。八人で始めた会社はみるみる人が増え、四〇人を超えた。

五年で常務取締役、一〇年で専務取締役に昇進。社内社外問わず、多くの人びとから〝ナンバー2〟と評価された。

専務の正直な胸の内は少し違った。

三〇年間、会社に対して小さな貢献はいくらかした。しかし役職に匹敵するほどの実績は何もない。社長の圧倒的なネームバリューに助けられた幸運がほとんどだった。

大きな失敗はたくさんした。社長に何度も尻拭いしてもらった。さらに大部分の失敗は自分の裁量で握り潰した。中小企業のナンバー2は、この程度の〝小さい悪事〟は自由自在にできる。これはどこの会社も同じである。

自分の立場を守るためには細心の注意を払った。自分の身を脅やかしそうな人間は陰で懐柔し、あるいは潰した。言うことを聞く人間ばかりを可愛いがった。

忘れられない事件がある。

客先の東証一部上場企業の取締役が社長にラブレターをよこした。東大出身、四五歳のエリート部長である。「あなたの考え、価値観にまったく同感する。弟子入りしたい。会社を辞めて、明日からでも押しかけ門下生になる」

社長はあたりまえだが悪い気はしない。「どうだ?」と聞かれた。突如、強敵が出現した。怖かった。いろいろと理由をこじつけて、強硬に反対した。

社長は専務の顔を立てた。「わかった。断ろう」と言った。明らかに落胆していた。

専務は会社の成長飛躍より、自分の立場やメンツを優先した。

あの時、もしその男を採用していれば…。自分は追い抜かれたかも知れないが、会社は十階建ての自社ビルを持てたかも知れないとは専務は考えなかった。専務の自負心が、それを許さなかった。

専務よ、あなたの弱さ、醜さは人間的ではある。社長はおそらくあなたを責めはすまい。しかしあなたの会社が〝今でもこの程度〟である責任の大半はあなたにある。

他人事ではない。この専務とは、あなたのことでは?