コラム『講師控え室』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
2014年10月号「講師控え室 68」
研修では仕事や日常の生活とは違う体験をする。そうした体験のなかで何が一番印象に残るか。完成合宿ではタメになった本を挙げてもらっている。そのほかでは“祝福”が心に残ったと言う人が多い。
自分には合格できないのではないか、という不安。弱さと闘う葛藤。試験は自分自身との対決である。
そしてその瞬間がやってくる。審査員から「合格!」と言われる。喜びを噛み締めながら講師のもとに戻って報告する。
「おめでとう!」と握手を求められる。歓喜。仲間が笑顔でかけ寄ってくる。「おめでとう!」と声をかけられる。肩を叩かれる。握手を求められる。
努力が認められ、自分を追い込むものから解放される。次に向かう向上心が湧いてくる。合格という結果、周囲が笑顔で祝福をしてくれた事実をあらためて実感し、喜びが湧いてくる。
この経験が研修生の心に深く刻まれるようだ。
祝福を受ける機会というのは実は少ない。生誕、七五三、入学、卒業、表彰、出産、長寿等。仕事の中では昇格、栄転、大きい目標達成あたりか。
祝福は周囲に自分のことを祝ってくれる人がいないと始まらない。
以前、研修生がこんなことを言っていた。
「私はこの研修に来て、おめでとう!と声をかけられて本当に嬉しかった。研修に来る前までは、会社で誰かに言われたことがないし、自分も人に言ったことがありません。
営業目標を達成しても、昇進しても、周囲は何とも言ってくれませんでした。私もそれが当たり前だと思っていました。もちろん部下に対しても同じ。何か成果を生み出しても、それくらい当たり前と思い、労いの言葉すらかけていませんでした。
しかし研修で、二日前までは顔も知らなかった班友から私の合格を祝福された時、こんなに嬉しいものだったのかと感動しました。私も他の人の合格があったら、我先に飛んで行って、おめでとう!と声をかけ、抱き合いました。素晴らしい経験をしたと思っています。
私はこの素晴らしい経験を会社に持ち帰り、周囲の方々にも味わってもらおうと思いました。
最初はみんな戸惑っていたのですが、だんだんと笑顔がこぼれるようになってきました。殺伐とした会社の雰囲気が明るく変わりました。祝福だけではなく、社員同士がお互いに声をかけ合うようになりました。祝福の力とはすごいものだと思いました」
あなたの会社では仕事の中で「おめでとう!」の声が上がっているだろうか。(浜中孝之)