コラム『講師控え室』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
2016年8月号「講師控え室 90」
「教育は大事」
多くの経営者や人事担当者と話をして、皆が口を揃える。
「企業は人」「社員の質で決まる」そんな言葉もよく聞く。しかし、社員の教育に対する「本気度」はピンからキリまである。
多くの会社を訪問して、経営者の本音を聞かせてもらう。
「研修? ないね」「お金がない」「仕事が忙しいから教育なんてしている暇はない」と吐き捨てる社長も多い。
「女子社員は結婚してすぐ辞めちゃうから、金の無駄」「新人や中途入社組は研修に出して教育しても、そのあとすぐ辞める可能性も高い。教育するならしばらく様子を見て、辞めないと判断できてからです」そう言って研修に背を向ける。
社員を教育するには、お金と時間がかかる。会社にかかる負担は小さくない。教育される側の社員には、そのありがたみを理解せずに反発する人もいる。経営者が本格的な教育に取り組もうとしない気持ちもわかる。
アイウィル研修を定期的に採り入れてくれている経営者には、そんな気持ちに負けない高い意識の持ち主が多い。
東京都国立市にある大石会計事務所の大石代表は「社員を研修に参加させる時には、会社のために頑張って欲しいという気持ちはありません」と言い切った。
「会社のために働く、会社のために頑張る、という考えを押し付けても今の人たちはイキイキと仕事ができません。あくまでも本人の成長を本気で願い、本人がやりがいを持って仕事に取り組める手助けをします。そうすれば、その努力は結果として会社にも貢献してくれる。社員が成長し、立派に独立していくなら、それもまた嬉しい」
仕事柄、独立志向の社員が多く、大石代表は会社を辞めて独立する社員を心から応援していると言う。
今、二十二歳の若者が研修を受けている。採用の面接の時、大石代表は初対面のその若者にお説教したそうだ。素直で優秀な青年だが、今時の若者で大人しく、礼儀挨拶返事などの基本的な対人スキルが身についていなかった。
「そのままじゃ、どこの会社に行ってもダメだぞ」。
まだ採用するか、入社するかもわからない一人の若者に向かって真剣に助言した。
その若者は今、大石代表の人間的魅力に惹かれて入社し、仕事と研修に日々奮闘している。
主宰染谷の著書の中に、私が特に好きな一文がある。
「あなたの会社の目的は何ですかと聞かれたら『人を育てることです。会社の第一の目的は人材育成です』と答える。あなたの会社をこう言える会社にしていこう」。(小川 宏)