コラム『講師控え室』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
2017年2月号「講師控え室 95」
昨年十二月、経営者養成研修の第五回合宿研修が行われた。
この五回目合宿は「一時間講演」。二日間まるまる自分自身の講演実施と他の同期の仲間全員の講演を聴いて採点をする。
すでに四回終了した合宿研修でも、毎回五分間のスピーチ審査があった。しかし、五分間と一時間では全く勝手が違う。
講演題目は、「経営者の条件」「わが社のビジョン」「人材育成について」の三つから選択する。どの題目も、スピーチをする経営者・経営幹部にとっては必須のテーマである。
ただし実際に話を聴いてみると、様々な会社の内情や将来性などが浮き彫りになってくる。研修生同士の距離がぐっと縮まるのもこの五回目合宿である。
本番を迎える。スピーチはフリースタイル。レジュメを配る人。直立不動で話す人。動き回る人。原稿を読む人。聴衆の目を見て訴えかける人。一方的に話す人。質問をして聴衆を巻き込む人。ホワイトボードに書き出す人。自社製品のサンプルを配る人。多士済々である。
点数がつく。三〇〇点満点で何点か。採点者は同じ研修生。ストレートな印象で点数をつける。
講師も点数をつける。研修生と講師では点数に開きがある。視点が違うので当然。採点者全員の平均点がその人の獲得点となる。高い人は二五〇点以上、低い人は一〇〇点台。
この一時間講演を聴いているといつも思う。「研修生は偉い」と。仕事がある。家庭もある。研修の分負担が減るわけではない。研修の他の課題もある。その中で準備・勉強・練習をしなければならない。中には代表取締役社長の人もいる。いったい、いつ時間を作り、練習するのだろう。点数が高かろうが低かろうが、講演がうまかろうがまずかろうが、そうした努力をおくびにも出さず笑って話す姿をすごいと思う。頭が下がる。
この一時間講演を境に、研修生は大きく変化する。研修課題の質が上がる。研修生同士のコミュニケーションが増える。何より態度行動が堂々とする。「一時間講演が私を変えました」という声も多く聞く。
経営者としての資質を高める講義や課題はたくさんある。しかし一時間講演が最も印象深いと言う人が多い。
この「一時間講演」はその人の財産になる。
上司の評価が高くなるのはもちろん。社員全員の前で、研修で行ったこの一時間講演を行って社員の意識向上に成功した人がいる。
頼まれて何百人の前で同じ話をして拍手喝采をあびた人もいる。
(坂口英生・横谷大輔)