コラム『講師控え室』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
2017年3月号「講師控え室 96」
「うちは研修には一人ずつ派遣します」と金生運輸の川端社長は言う。同じコースに同時に二人以上送りたくないと。一緒に受けると甘えが出る、一人で闘ってほしい。しかも地元開催の研修ではなく、東京など遠い所で受けるのがいい。
研修ではたくさん恥をかくことが大事だ。自分がどれだけできていないか、どれだけ知らないか、それを自覚してほしいと言う。「私は若い頃にたくさん研修を受けた。田舎から東京にも出て行き、都会の奴らと一緒に受けた。そこでたくさん質問した。他の人は質問しない。かっこつけてわかったふりをしている。何をかっこつける必要があるのか。わからないから研修を受けに来ているのでしょう。わからないことは質問する。普通のことでしょう。恥をかけばいいんですよ。だからうちの社員にはたくさん恥をかいてほしい」
さすが経営者は違う。これが経営者意識である。しかし普通の研修生の意識は違う。ここまで高い意識の人は滅多にいない。
研修の中では講師がいろいろな質問をする。「どう思いますか?誰か?解る人?」手が挙がらない。下を向く人が多い。
朝礼でのスピーチへの志願者を募る。「誰かやりたい人?」誰も手を挙げない。下を向く。誰かやってくれないか、と心の中で思っている。他の人が手を挙げるのを待っている。
失敗したくない。恥をかきたくない。笑われたらどうしよう。こういった気持ちから、手を挙げられない。勇気がない。研修の中ではここが一つの壁である。これを乗り越えないと前には進めない。
失敗したっていい。恥をかいたっていい。挑戦して失敗することこそが、自分の成長につながる。一歩踏み出す勇気のない人は、いつまでも消極的で誰かの後をついていくだけの受け身の姿勢のままだ。
川端社長はだからこそ、一人で闘わせたいのだ。全く知らない土地で、知らない人達の中で、恥をかき前へ進む姿勢を身につけてもらいたいのだ。そこにこそ大きな価値があり、本人の成長につながることを、社長は自らの若い日の体験から知っている。
仕事でも同じ。新しい仕事、難しい仕事に自分からチャレンジする。
失敗するかもしれない、叱られるかもしれない。その経験こそが自分の力になる。
チャレンジできない人は失敗しない。人の失敗を見てわかったような気になる。しかしそこには本物の力はつかない。
チャレンジした人だけが、成長のチャンスをつかむことができるのである。さあ、手を挙げよ!! (兼頭康二)