コラム『講師控え室』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
2018年2月号「講師控え室 106」
ある会社の社長がこう話を始めた。
「なかなか新入社員をとれないんだよねえ」お客様のところへ伺うとよく耳にする言葉である。
景気が上向いているとはいえ、われわれ中小企業の現実はまだまだ厳しい。
しかし、この社長の「とれない」は少し意味が違っていた。一般的には、募集をかけても応募がこないために採用できない。また二百万三百万かけて、一人二人採用してもすぐに辞めてしまうが「とれない」である。
今期の、この会社への応募者数は百名を越えているという。ただし独自の試験を実施して、採用に至ったのは六名。何とかあと二名はとりたいと採用活動を続ける。
その独自の試験とは、単純作業をやらせるのと四則演算。他にもやっているが、この二つでほとんどの学生が不採用となる。
「社長、最近の大学生は分数や小数の計算もできないですから」と言うと、「いやいや、二桁と一桁の掛け算ができないんだよ」と返された。
確かにアイウィルの研修でも簡単な四則演算の計算をやっているが、計算が遅い、または不正解な人は反応が鈍いし、手際が悪い。頭の回転も遅い。これは今までの経験から言える真実である。
単純作業も要領の良し悪しがはっきり表れる。特に、新入社員のうちは雑用と呼ばれる単純作業の連続。同じ作業を頼んでも、時間のかかる人・かからない人、正確に仕上げる人・ミスの多い人と分かれてしまう。
これは雑用に限ったことではない。実際の仕事においても、一事が万事なのである。実は、アイウィルの社員採用試験でも四則演算のテストを実施する。どんなに人柄が良くても、計算が遅く不正解な人は採用には至らない。
私が新入社員の頃は、上司・先輩より先に出社をして掃除から一日が始まった。床をはき、モップがけ、そして全員の机の上をぞうきんがけ。給湯室へ行きやかんでお湯を沸かしポットへ入れ準備をしておく。
新入社員は何もできない存在なので、少しでも会社の役に立てることが嬉しかった。また雑用は新人に回ってくる。ただ漠然と作業をしていると「もっと考えて作業しろ」と先輩から叱られた。どうすれば、より速く正確にできるのか、前もって考えて段取りを組むのである。時には時間を計り競いながら作業をした。
よって前記の社長の話を聞いた時、私も合点がいった。いろいろな適性テストをするより、四則演算を単純作業をぜひ採用試験に取り入れてみてはいかがでしょう。(坂口英生)