コラム『講師控え室』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
2019年5月号「講師控え室 121」
食品会社の教育担当の方の要望で、スピーチ力向上の一日研修を行った。
「工場長クラスが人前でスピーチができない。朝礼や集会、発表会、委員会など、人を説得させる話し方が全くできなくて困っている。そもそも話自体が場当たり的で組み立てもなく、自信を持って話せないから、部下たちが戸惑ってしまう。半日くらいの研修で、三十分くらいのスピーチができるようにならないか」。営業でうかがった弊社の畠山は「半日の研修で三十分のスピーチ力は無理」と答えた。
当たり前である。三分間のスピーチを成功させるにも一時間の練習が必要である。三十分ならば十時間の練習が必要。台本作りは別の時間だから、十四、五時間、少なくも二日間は研修として必要である。
しかし教育担当者もなかなか引き下がらない。「私も六十九歳で時間があまりない。幹部クラスの人間たちのスピーチくらいは何とかしたい」と訴えてくる。「一日でできませんか」と強く要望してきた。畠山は「三十分スピーチは無理だが、三分スピーチなら可能」と答えた。
こうして十人の幹部クラスの一日スピーチ研修が決まった。
まず、参加者には研修二週間前から「三分間スピーチをやってもらうので準備しておいてください」と伝えてもらった。一人一人のスピーチ力がどんなものか知るためである。
まず、声が小さい。自信なさそうに話すのでいらいらする。「えー」「あー」などの間投詞が多い。クセになっているので注意しても直らない。
話のまとまりがない。何を伝えようとしているかが固まっていないため、話が前後する。
このスピーチをICレコーダーに録音し、全員でもう一度聞き直して、一人一人が良い点と悪い点を述べあった。
スピーチで大事なのは「何をどう話すか」である。まず「どう」の部分の改善をはかった。声を大きくし、強弱や緩急を取り入れた。研修生たちの意欲もあり、この部分の変化は早かった。
「何を」の部分は時間がかかった。原稿を再構築である。この時に注意したのは二点。第一に、テーマを三つに絞って話す。箇条書き式に話すことで、伝えることが明確になる。第二に、序、本論、結論で話す。流れができあがり、話しやすくなる。
まずはここからだった。研修生の原稿はみるみる改まり、最終的に行ったスピーチは別人のように上達していた。教育担当者は感謝してくれた。
三十分間のスピーチは有言実行研修の最終日に、一時間の講演は経営者研修で訓練している。
教育効果も時間×情熱×能力である。(浜中孝之)