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コラム『講師控え室』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

2022年5月号「講師控え室 155

 

「顔パンツ」。次から次へと、メディアは面白おかしい言葉を発明してくれるものだ。人前でマスクを外すことに強い抵抗を感じ、マスクを下着になぞらえてそう呼ぶらしい。

リサーチ会社「日本インフォメーション」が全国の男女約千人を対象にした調査によると、女性を中心に全体の約四十四パーセントがマスクを外したくない心情に理解を示した。コロナ収束後もマスクを「必ず」「できるだけ」使うとの回答も、二十代?三十代女性で六十パーセントを上回り、三十代男性でも五十五パーセントを超えた。

コロナ禍に突入してから出会った人たちの、素顔を一度も見たことがない。よくある話だ。鼻と口元が隠れた状態しか認識したことがないから、いざ全容が見えた時にかえって違和感を感じたりする。

日本人は欧米人ほどマスクへの拒否感がないとの指摘もある。ある心理学者は、顔のどこに感情が表れるかの違いが影響を及ぼすのではないかとする。

「相手の表情を見分ける際に、欧米の人々が注視するのは口元である。それと比較して、日本人は目元を見る傾向がある。マスクで鼻と口が隠れていても、日本人は忌避(きひ)感が少ないのでしょう」。

目は口ほどにモノを言う、まさに日本人は相手の目から心情を読み取るということだ。

気づいて面白いなと思ったことは、この違いは「顔を隠すならどこを隠すか」で日本を含む東洋と西洋の違いに通ずることだ。東洋で特に高貴な身分の人たちは、杓や扇で口元を隠した。一方西洋では、上流階級の舞踏会などで目元を覆う仮面が大流行した。階層ごとに定められている細かい規則や行儀作法が宮廷には存在するが、仮面舞踏会の最中には仮面による匿名性によってその抑圧から逃れられたことが理由ともいわれる。その人気は、風紀を乱す元凶であると禁止令が出されるほどだったらしい。

先述の心理学者によると、人間の脳は、マスクで見えない部分を平均的な顔のイメージで補っているのだという。勝手なイメージで虚像を作り上げられて、マスクを外した途端に「あれ?」と思われるとは、少々失礼な話ではないか。

以前から、特に理由がないのにマスクを常用する『だてマスク依存症』はいた。他人の視線が気にならずに落ちつくなら、それはパンツを超えて武装する現代人の鎧だろう。

深い関係がなければ相手の素顔を見られない。平安時代、「見る」は「結婚する」と同義だった。現代も同様に口元を見せるのは「心を許す」になるのかもしれない。(坂本利江子