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畠山裕介の『人と話の交差点』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「人と話の交差点 314」  畠山裕介

 

盲導犬クイール1

 

-ナンバー2(41)-

 

盲導犬クイールの話をご存知だろうか。

盲導犬は、パートナーとなった視覚障害者と人生をともに生きる。その人の目となり耳となり、安全に誘導する任務に生きる。

クイールの犬種は、盲導犬に適したラブラドール・レトリーバー。誕生して五〇日後、盲導犬候補に選ばれた。人が大好きで、素直で落ち着きのある性格が買われたのである。そして〝育ての親〟である仁井夫妻に預けられる。

クイールは仁井夫妻の愛情をたっぷり貰って、ぐんぐん成長する。四キロだった体重が二〇キロを越えた頃、仁井夫妻の元を離れる。

訓練センターでの新しい生活が始まる。多和田訓練士からあたたかくも厳しい教育を受ける。訓練士は〝しつけの親〟である。

盲導犬のタマゴが最初に教わるのは二つ。

一つは、人間の指示を聞く姿勢態度を作るための基本訓練。「おすわり、まて、ふせ、おいで」などの基本動作を徹底して、反復訓練される。これは人間のしつけ教育と同じ。

もう一つは、目の不自由な人と安全に歩くための誘導訓練。実際に街中を歩くので、タウンウォークという。ここでは「(人に)角を教える」「段差を教える」「障害物を教える」ことを学ぶ。

四週間の厳しい訓練を終え最終審査。クイールはみごと合格を勝ち取った。

いよいよ実践デビュー。ユーザー(主人)は、中年男の渡辺満さん。障害者施設で働く目の見えない人。口は悪いがあたたかい人柄で、周囲の人たちに好かれている。ただし、大の犬嫌い。当初は「犬に牽かれるくらいなら死んだほうがまし」が口癖だった。

初めこそぎくしゃくしたコンビだが、クイールはすぐに渡辺の心をつかむ。ハーネス(補助器具)を通して伝わってくるクイールの賢さと思いやりは確実に渡辺に伝わった。

渡辺は「クー、クー」と呼んで、クイールを頼った。

コンビは二年間、頼り頼られの充実した毎日を送った。

渡辺が体調を崩した。重い腎臓病だった。三年間の入院生活に。

クイールは訓練センターに戻された。そして盲導犬の仕事を社会にアピールする仕事につく。

三年後、渡辺は突如センターに現れる。クイールは尻尾を振りながら喜び、静かに渡辺の横に座る。渡辺は優しく語りかける。「クー、もう一回いっしょに歩こう」

しかしいっしょに歩いたのは、わずか三〇メートル。それでも渡辺は「うん、もうこれでいい」と満足げに言い、自分の手で、クイールのハーネスを外してやった。それは渡辺との永遠の別れを意味した。

渡辺が亡くなったのは、それから一週間後だった。