株式会社 アイウィル

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染谷和巳の『経営管理講座』

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

「経営管理講座 392」   染谷和巳

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ナンバー2研修の意義

社員に「あなたの会社のナンバー2は?」と聞けば「専務です」「副社長です」と即座に答えてくれる。社長の次の人がナンバー2。「その人はなぜナンバー2なのですか」と聞くと「…専務ですから」と適切な返事は返ってこない。会社が求めるナンバー2の役割を社長も社員も知らない。

社長の足りない部分を補う人

万能の社長はいない。長所欠点がある。長所を生かして成功してきた。成長の初期段階で欠点は致命的ではない。

ダイエーの創業者中内?は〝失敗〟を反省して晩年になって経理の勉強のため学校に通ったという。

売上げが上がり、銀行がいくらでも貸してくれる時代、お金がジャブジャブある時代が続いたので収支決算や経費を軽視した。

組織は攻撃と守備の両部門で成り立つ。双方バランスがとれていれば健全に機能する。成長期の会社は大抵守備を疎かにする。

財務や経理は社長の言うことを何でも聞く人を置き、投資、購入、仕入れから社長の身辺の経費まで、お金は社長の意思でフリーに出るようになっている。経理部長はお金の管理人、帳簿付けであり、お金の出し入れをチェックする人、健全な血流維持の責任者ではない。

ダイエーは中内の意のままにお金が動き、その異常を知らせ、危険を諫める人がいなかった。

赤字になり警報が鳴り、自分にできないことをしてくれる人を外部に求め副社長にした。副社長は不採算事業を切り捨て、腐っている人心を甦らせるため社員教育を行った。三年間続いた赤字は一年で黒字になり以後黒字が続いた。中内は副社長の功を認めたが、自分にズケズケ意見する〝態度〟が我慢ならず副社長を解任した…。

一つの会社に社長は二人はいらない。頭が二つあれば手足はどっちの言うことを聞けばいいか戸惑い仕事ができなくなる。

もし会社に「自分より有能優秀だ」という社員がいるなら、その人を排除するか、別会社の社長にすべし。そうしないで幹部として扱っていれば、この社員は必ず独立して同じ仕事をし客を奪い敵になる。

この社員はナンバー2になる人ではない。事業を興して社長になる人である。もちろん失敗して埋もれるケースが大半であるが、決して会社を支える人材になる人ではない。

ということは仕事ができて部下を指導育成できる人が必ずしもナンバー2になれる人ではないのである。

真のナンバー2の条件は会社に対する絶対の忠誠心があることと社長の補佐役に徹することができることである。

社長の苦手部分や欠点を補って、裏方として汚れ仕事を引き受ける。これを自分の任務と自覚して行動する人である。

言い換えると表の社長に対する裏の社長がナンバー2である。一つの会社に社長は二人いらないが、社長を動かし社長の不足を補い、時には真向から社長と対決してクビを覚悟で諫言する二人目の社長である。

裏の社長なので表に顔は出ないし脚光をあびることもない。

運がよく時流に乗って社長の力で成長した会社が、大きい壁を打ち破って強い組織の会社になるにはすぐれたナンバー2の存在が欠かせない。ナンバー2がいない会社はここから一気に衰亡期に入ってしまう。今まで多くの会社を見てきたが、この例外はない。

戦争や勝敗を競うスポーツにはすべて攻撃と守備がある。いくら攻撃力があっても守備力が劣れば勝てない。会社も目的達成型の同様の組織であり、攻めと守りの調和が求められる。

地方のある中堅機械部品メーカー。長男が後を継いで二代目社長になった。技術屋の工場長。社長になってからも工場に出勤。社長室にいたことがない。銀行や仕入先など来客の応対は次男の専務がしている。社長宛のアポイントはすべて専務に丸投げ。社長は工場の中でも必要最小限しか口をきかない。機械の方を向いたきりである。

営業部長を兼ねる専務は言う。

「大企業がウチの製品を使ってくれるのは技術のおかげです。社長の腕とカンは先代ゆずりで品質は折り紙付き。品質と新製品開発が会社の生命線であり、社長がその責任を十分果たしている。私は普通社長がすることをしていますがあくまで守りに徹するナンバー2です」。

こうした少し変ったケースもあるが、社長と同等の力を持つ守りのナンバー2がいれば健全な経営ができる。

社長不在時に代行が務まる人

六十代前半の社長が病気で長期入院した。病室に机とパソコンが持ち込まれ、夕方社員がつぎつぎと呼ばれて指示を受けた。看護師は病室を「○○会社社長室」と敬意を込めて皮肉った。

パソコンとケータイ電話の普及で部下の報告、上司の指示は対面口頭でしなくても済むようになった。

ではメールでも電話でも部下の報告が届かなかったら上司はどうするか。いらいらし、注意し催促する。それでも十分な報告がなければ部下に不信感を抱く。

入院した社長はメールと電話の報告指示だけでは収まらず部長課長を呼びつけて話を聞き直接指示を出した。今まで会社でしていたのと同じやり方を病室で行った。

社長は何日会社をあけられるか。一週間か、一ヵ月か、一年間か。社長は社員の報告を何日受けずにいられるか。ケータイ電話を全員が持つ今は、社長が社員と接しなくても仕事ができる期間は長くなっている。「会社へ行かなくても経営は順調」と言う社長もいる。

二十年前までの社長は社員の報告不足にいらだち、社員の仕事振りを直接見て指示を出していた。それができない半年の入院は静かに寝てはいられなかった。

これは報告と指示の問題ではない。ナンバー2不在の問題である。

入院社長の会社にも専務も常務もいた。二人ともパワー社長に圧倒されておとなしかった。言われたことはするがそれ以上はしない。一般社員と変わりなかった。

社長の代わりが務まる人ではなかった。社長も二人に自分がいない間の会社を任せる気はなかった。この会社は〝社長代行〟ができるナンバー2がいなかった。

もしいれば社長は安心して静養できた。それができずに相変わらずパワフルに仕事をした。入退院を繰り返して早世した。

社歴を積み組織が大きくなっていく段階で社長は自分の補佐役、自分がいなくても経営を代行してくれる一人の幹部を育てねばならなかった。

命を削って作り上げた新研修

社長の中には真剣に会社のナンバー2を求めている人がいる。

四年前からこの月刊ヤアーッのコラムで畠山裕介が「ナンバー2」の連載をしている。

これを読んでいる北陸地方の会社社長が「毎回読んで胸が痛むんです。ウチの問題点です。本当のナンバー2が欲しい。私が半年海外で仕事をしていても会社を任せておける人。こうした人を育てるのは私にはできません。アイウィルさん、何とかしてくれませんか」と言ってきた。

畠山に伝えると浮かない顔で「難しいですね」と答えた。

脳腫瘍で頭を何度も開いて手術したがよくならず、医者から「余命一年」と嚇かされて失意の底にある時である。大阪の医者に替えて腫瘍の拡大は防がれ、ひとつひとつが小さくなって小康を得、「余命一年」はクリアした。しかし大病を背負っていることに変わりはない。

諦めて忘れていると令和三年四月、「ナンバー2養成研修のリーディングマニュアルを作りました」と畠山。

検討すると優れたできばえである。さっそく講師陣に配布して研究させた。「ここに大きい穴がありました。経営者から新入社員までのどれともダブらない。〝穴〟を埋める研修です。いい研修にしましょう」と兼頭講師。

講師の研鑽と社員を生徒にした模擬研修を重ねて、いつでも研修を開始できるレベルに達した。

同封の案内書に記載のとおり、第一期を十二月十八日(土)から開催する運びになった。

畠山は私が社長をしていた時のナンバー2であった(二代目の現社長はこれから自分のナンバー2を作ることになる)。当初は実が入っていない形ばかりのものだったが十数年前から本物になった。自分の二十年近いナンバー2体験を下敷きにして研修内容の作成に入った。まさに命を削って作り上げた魂のこもった新製品である。

守りの主役、補佐役にこれぞという人がいない会社は多い。またそのことを問題だと思っていない社長が少なくない。

これは社長にとって後継者の育成決定と同等に重大な問題である。優れたナンバー2を持つことは社長にとってだけでなく、会社の成長にとって絶対に必要な条件である。


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