株式会社 アイウィル

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染谷昌克の『経営管理講座』

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

「経営管理講座 454」   染谷昌克

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本当に任せているか

「任せた」と言いながら、役割だけを渡し、権限と判断は上司が握ったままになっていないだろうか。人は肩書を与えられただけでは責任者にならない。自分で考え、決め、その結果を引き受ける経験を重ねて育つ。本当に人を育てる「任せ方」とは何か。経営者も管理者も、いま一度、自社を見直してみたい。


任せたつもりの落とし穴

「営業部は君に任せる」「この現場は課長に任せた」。経営者や管理者なら、一度は口にしたことがあるだろう。役職を与え、担当を決め、仕事を持たせる。形の上では任せている。

値引きは上司に確認。納期変更も確認。大きなクレームへの対応も確認する。採用や人の配置となれば、最後は社長が決めている。

部長も課長も担当を持っている。それでも重要な場面になると、「この条件で出していいでしょうか」「このお客様には、どう対応しますか」と上司のところへやって来る。

上司は答える。その方が早い。経験がある。失敗が少ない。任せたい気持ちはあっても、お客様に迷惑をかけたくない。数字を落としたくない。大事な場面ほど、自分で決めたくなる。その気持ちはよく分かる。

そのとき判断の経験を積んでいるのは誰だろうか。答えを出した上司である。この状態が続けば、上司には経験がたまり、部下には「迷ったら聞く」という習慣が残る。上司は「いつまでたっても自分で決められない」と嘆き、部下は「勝手に決めれば叱られる」と考える。どちらかが悪いのではない。そういった仕事の渡し方になっているのである。

役割を与えることと、権限を委ねることは同じではない。肩書を渡し、仕事の範囲を決めても、決める力を上司が握ったままなら、本当に任せたことにはならない。

人は肩書で責任者になるのではない。自分で考え、決め、結果を受け止める。うまくいかなければ振り返る。その積み重ねが責任者をつくる。

その機会をつくるのも、上司の仕事である。仕事を渡すだけでは足りない。考え、決める経験まで渡して、初めて人は育っていく。


責任は全部俺がとる

㈱サン・アルゲンの仙台営業所で、実際にあった話である。

現在の社長、佐々木大助氏は、仙台営業所を立ち上げた本人でもある。何もないところから拠点をつくり、お客様を開拓し、取引業者との関係を築いた。自ら現場を走り、営業所を軌道に乗せ、業績を伸ばしていった。

その佐々木氏が本社へ戻ることになった。後任の営業所長となったのが戸田さんである。自分が一からつくった営業所だ。仕事のことは誰よりも分かっている。言おうと思えば、いくらでも指示できたはずである。

佐々木氏は、そうしなかった。

「責任は全部俺がとる。好きなように、ただし全力でやれ」

戸田さんは、この言葉で奮い立ったという。所長として成果を出すには、知らないでは済まされない。商品を学ぶ。お客様のもとへ足を運ぶ。取引業者との関係を深める。現場を見る。自分の頭で考え、決める。迷う場面もあった。それでも、最後は自分で腹を決めて進む。そうした日々が経験となり、自信になっていった。現在も仙台営業所長として、業績を上げ続けている。

私は、「好きなように」より、その前の一言に重みを感じる。

「責任は全部俺がとる」

失敗したときに「お前に任せたのだから、お前の責任だ」と言われるなら、人は難しいことほど上司に確認する。自分で決めるより、その方が安全だからである。

佐々木氏は、責任を自分に残した。そのうえで、戸田さんに決める余地を与えた。

戸田さんにとって、それは大きな後ろ盾だった。任された以上、逃げることはできない。信じてもらった分だけ、応えようという気持ちも強くなる。

誰よりも指示できる人が、あえて口を出しすぎない。知らないから任せたのではない。

知っているからこそ、任せたのである。

この話には続きがある。

戸田さんは私に、こう話した。

「私にも後任が来たら、同じ言葉をプレゼントします」

佐々木氏から戸田さんへ渡されたのは、営業所長という役職だけではなかった。自分を信じて任せてもらった経験である。

佐々木氏から戸田さんへ。

戸田さんから、次の人へ。

任せ方そのものが、人から人へ受け継がれていく。組織が強くなるとは、こういうことではないだろうか。


経験まで託して育てる

人を育てるには、知識や仕事のやり方を教えるだけでは足りない。自分で決める力は、実際に決めなければ身につかない。

私は講演で、「教育は言葉で渡す。権限委譲は経験で渡す」と話している。

何を大切にするのか。なぜ、そう考えるのか。それは言葉で伝えられる。だが、権限委譲は本人に考えさせ、決めさせ、やらせなければならない。成功も失敗も経験し、振り返る。その中で判断する力が育っていく。

もちろん、何でも自由にしてよいわけではない。どこまで決めてよいのか、その範囲は明らかにする。その中では本人に任せる。

上司には我慢もいる。自分なら五分で答えが出ても、部下は時間がかかる。致命傷にならない失敗なら経験させる。

人を育てるとは、失敗させないことではない。失敗から学べるところまで託すことである。

上司の仕事も、自分が答えを出すことから、答えを出せる人をつくることへ変わる。

㈱サン・アルゲンが所属している三友鋼機グループの社是は「信」である。「信用・信頼・信念」を大切にしている。その一文字は、人の育て方にも表れている。人を信じて任せる。任された人は、その信頼に応えようとする。やがて自分も、次の人を信じて託していく。人から人へ渡るのは、仕事の手順だけではない。信じてもらった経験、考え抜いた時間、自分で決めた自信、誰かに託す姿勢。それらが組織に残っていく。

私は、その力を「継承力」と呼んでいる。知識、技術、経験、判断、価値観を、一人の中に留めず、次の人へ渡していく力である。

その実践の場として、この十一月、組織構築大学校を開講する。

学んで終わらず、自社で実行し、次へつなげていく。

個人の力を、組織の力へ。

部下が相談に来たら、すぐに答えず聞いてみる。

「君は、どうしたい?」

そして、自分にも問いたい。

私は、この人に本当に任せているだろうか。



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