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染谷昌克の『経営管理講座』

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

「経営管理講座 448」   染谷昌克

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経営を書き直す力

書き直すことは、経営者の仕事である。会社は一度書いて終わるものではない。弘法にも筆の誤りというように、どれほど優れた人でも誤る。重要なのは誤りに気づき、書き直すことである。日本には残心という言葉がある。行動の後にこそ本質が現れる。経営とは、その積み重ねなのである。


名人とて誤りはある

「弘法にも筆の誤り」という言葉がある。

書の名人、弘法大師空海ほどの人物でも、時には文字を書き損じることがあるという意味である。この言葉の由来として知られている話がある。

平安京の大内裏にあった「應天門」に掲げる額を書いた際のことである。その文字の中の「應」の字をよく見ると、本来あるべき点が一つ欠けていた。わずかな違いであるが、その違いに気づいた人々は言った。

「弘法にも筆の誤り」

どれほど優れた名人でも、誤ることがある。その姿に、人は驚きと同時に深い示唆を見たのである。

当時、弘法大師空海は一介の書き手ではなかった。密教を伝えた高僧であり、学問、思想、技芸において抜きん出た存在であった。朝廷からも厚く信頼され、その筆は「国家の格式」を示すものと見られていた。

應天門は都の正門であり、その額に書かれる文字は、単なる装飾ではない。都の威厳を象徴するものであり、人々はその一画一画に意味を見ていた。

都に生きる人々にとって、空海の書は特別なものであった。そこには権威と美が宿り、正しさそのものが表れていると信じられていた。だからこそ、その文字にわずかな違いを見つけたとき、人々は見過ごさなかった。

「應」の字の点が一つ足りない。

それは些細な違いである。日常であれば気にも留めないほどのものである。

それが空海の書であるからこそ、人々の目はそこに向いた。誰もが正しいと信じていたものの中に、わずかな揺らぎがあった。その事実に、人々は驚いたのである。

同時に、どれほど完全に見える存在でも、人である以上、誤りから逃れることはできないことに気づいた。

その気づきが、「弘法にも筆の誤り」という言葉になったのである。

この言葉は、単なる逸話ではない。人の本質を突いた教えである。たとえ名人であっても誤る。優れた人であっても間違える。さらに掘り下げると、「名人でさえ誤るのだから、普通の人はなおさら誤る」という現実に行き着く。

経営も同じである。どれほど優れた経営者でも、どれほど経験豊かな管理者でも、人である以上、判断の誤りから逃れることはできない。見落としもある。思い込みもある。状況の変化に気づかないこともある。むしろ、責任が大きいほど判断の重さは増し、誤りの影響も広がる。

重要なのは、誤らないことではない。

人は必ず誤る。この事実を直視できるかどうか。ここに経営の質が現れる。誤りを否定するのではなく、誤りを前提に組織を考えるのである。

この時、誤りを正すという発想が生まれる。

気づき、認め、正す。この繰り返しが、組織を強くしていく。経営とは、誤りを避けることではない。誤りを乗り越え続ける営みである。その出発点はただひとつ、人は必ず誤るという事実を受け入れることである。


組織は書道に似ている

書を書くとき、必要なのは筆だけではない。

筆があり、墨があり、硯があり、紙がある。これらが揃って初めて一つの文字が生まれる。

企業も同じである。

筆は人材である。社員一人ひとりが会社という作品を書く存在である。しかし筆が整っていなければ、美しい文字は書けない。だからこそ必要なのが「人間力」である。

礼儀、挨拶、ビジネスルール、そして物の見方・考え方。人の姿勢が定まるとき、仕事の質は変わる。

次に必要なのが墨である。墨は文字に意味を与える。企業において墨とは理念である。理念は仕事に方向を与える。

そして墨を磨るためには硯(すずり)が必要。硯は目立たない。しかし硯がなければ墨は磨れない。組織においては、流れを整え、全体を支える役割を持つ存在である。

最後に紙である。紙とは現場である。理念も戦略も、現場に書かれて初めて意味を持つ。

この連動が組織の力を決める。

書を書くとき、必要なのは筆だけではない。筆があり、墨があり、硯があり、紙がある。それぞれが役割を持ち、初めて一つの文字が生まれる。

企業も同じである。社員がいて、理念があり、支える役割があり、現場がある。

この流れがかみ合ったとき、組織は機能する。


残心が仕事の質を高める

日本の武道には「残心」という言葉がある。

残心とは、行動が終わったあとも心を緩めず、次に備えている状態のことである。剣道では、一太刀を打って終わりではない。打ったあとも姿勢を崩さず、相手の動きを見ている。

仕事も同じである。

多くの会社では、仕事が終わるとそこで終わりになる。しかし本当に大切なのは終わったあとである。

振り返る。見直す。次に活かす。振り返りの質が成果を左右する。この姿勢があれば、仕事は次の成長につながる。誤りを正せない組織は、必ず同じ失敗を繰り返す。

放置はやがて習慣になる。

会社とは、一つの作品である。

筆が人材。

墨が理念。

硯が補佐。

紙が現場。

経営者が、その文字を書く。しかし「弘法にも筆の誤り」。

どれほど優れた人でも、必ず誤る。

だからこそ経営者には、書き直す責任がある。書き直し続ける覚悟が必要なのだ。

その積み重ねが、会社の未来をつくる。経営とは、書き直し続ける仕事なのである。

では、この「書き直す力」はどのようにして身につくのか。

気づきを言葉にし、行動に移し、振り返る。この循環を習慣にすることである。問題を見つけ、改善を決め、実行し、次に活かす。

私はこれを有言実行と呼んでいる。

この習慣を組織に根づかせることが、会社を変える力になるのである。

この考えを体系として実践しているのが「有言実行研修」である。



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