株式会社 アイウィル

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染谷昌克の『経営管理講座』

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

「経営管理講座 451」   染谷昌克

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なぜ人は辞めるのか

厚生労働省の調査によると、新卒社員の約三割が三年以内に退職している。十人採用すれば三人が辞める時代である。この数字以上に価値観の変化がある。人が辞める時代になったのではない。人が辞めることを当然と考える時代になったのである。


三年で三割が辞める時代

先日、ある企業の採用担当者と話をした。

「最近の履歴書は驚きますね」何に驚くのかと聞くと、応募者の転職回数だという。五社、六社は珍しくない。八社、十社という人もいる。

私が社会人になった頃は違った。当時は履歴書に転職歴が多いことは決して良い評価ではなかった。「なぜ長続きしないのだろう」「何か問題があるのではないか」そう見られることも少なくなかった。

ところが今は、事情が確実に変わってきている。転職を前向きに取り上げる報道や情報も増えた。本人も隠さない。企業側も昔ほど気にしない。転職することへの抵抗感が大きく下がっているのである。

新入社員研修でも変化を感じる。「皆さんはこの会社で何年働くつもりですか」こう質問すると、昔は「定年まで頑張ります」と答える人が多かった。

ところが最近は、

「分かりません」

「良い会社があれば転職するかもしれません」という答えが返ってくる。

悪気はない。極めて自然な感覚なのである。

終身雇用が当たり前だった時代から、自分に合う会社を探す時代へ。社会は確実に変化していると言えるだろう。

さらに大きいのは親の価値観である。三十年前は、仕事を辞めたいと親に相談すると、「石の上にも三年」と言われた。嫌なことがあっても三年。思うようにいかなくても三年。まずは続けてみなさい。

そんな教えであった。

ところが今は違う。若者が親に相談する。

「会社を辞めようと思う」。すると「あなたの好きにしなさい」「無理をする必要はない」という答えが返ってくる。

どちらが正しいという話ではない。ただ、経営者は現実を見なければならない。

昔は「石の上にも三年」という言葉が社員を支えていた。親も上司も先輩も「まずは続けてみろ」と言った。

しかし今は違う。合わなければ辞める。別の会社を探す。それが特別なことではなくなったのだ。時代は確実に変わっているのである。

企業は、人が辞めないことを前提に経営するのではなく、人が残りたくなる組織をつくらなければならない。

なぜ人は辞めるのか。

なぜ人は残るのか。

その答えを考えることが、これからの経営に求められている。


人が残りたくなる会社

離職の原因を給与や休日だけで考える経営者もいる。

もちろん、それも大切である。

しかし私は全国の企業で研修を行う中で、それだけではないと感じている。

人が辞める会社には共通点がある。

何を頑張れば良いのか分からない。何が評価されるのか分からない。上司によって言うことが違う。将来の姿が見えない。つまり組織の中に基準がないのである。

反対に人が定着する会社にも共通点がある。それは人を大切にしていることである。

ここでいう人を大切にするとは甘やかすことではない。

人が育つ環境をつくることである。人は認められることで成長する。上司から認められる。仲間から認められる。お客様から認められる。

認められることで自分の存在価値を感じる。承認欲求が満たされるのである。

その時小さな変化が起こる。「自分もこの組織の役に立ちたい」という当事者意識の芽生えである。

最初は小さな芽に過ぎない。しかし、その芽はやがて責任感へと成長する。

後輩ができる。任される仕事が増える。周囲から期待される立場になる。

「自分がやらなければ」という気持ちが生まれる。責任感はさらに使命感へと変わる。

そして最後には、

「この会社を良くしたい」

「この仲間と共に成長したい」という愛社精神へと育っていく。人が辞めない会社とは、待遇の良い会社ではない。

自分の存在価値を感じられる会社である


存在し続ける組織をつくる

企業の目的は何だろうか。利益を出すことだろうか。売上を伸ばすことだろうか。地域や社会へ貢献することだろうか。

もちろん重要である。

しかし、それらは企業が存在し続けるための手段であって目的ではない。

企業の大きな使命の一つは、存在し続けることである。

企業が存在し続けるために欠かせないものがある。

それは人である。

どれほど優れた商品があっても、どれほど優れた技術があっても、人が育たなければ続かない。人が残らなければ続かない。

特に中小企業においては深刻である。社員数千人の企業であれば、一人二人辞めても大きな影響はないかもしれない。しかし三十人、五十人、百人規模の企業は違う。

営業担当が辞める。管理職が辞める。ベテラン社員が辞める。

一人の社員が抜ける影響は決して小さくない。

離職率の問題は、人事だけの問題ではない。経営そのものの問題なのである。

だから多くの経営者は「どうしたら辞めないのか」を考える。

しかし、その問いだけでは不十分である。

本当に考えるべきことは、「どうしたら育つのか」である。人は成長するから残る。任されるから残る。認められるから残る。

そして組織の一員としての自覚が芽生えるから残る。

居心地の良い組織をつくるのではない。人が育つ組織をつくるのだ。

育つ組織には期待がある。役割がある。任される仕事がある。当事者意識が生まれ、責任感が育つ。会社を支える意識が育つ。

人は、自らの成長を実感し、その組織に自分の存在価値を感じた時に残るのである。

人が育てば、次の人を育てる。人を育てる人が増えれば、組織に力が残る。その積み重ねが、存在し続ける企業を作るのである。

個人の力が組織の力へと変わる。その時、企業は強くなる。

離職率の問題とは、結局のところ人づくりの問題なのである。



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