株式会社 アイウィル

03-5800-4511

染谷和巳の『経営管理講座』

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

「経営管理講座 400」   染谷和巳

PDF版はここををクリック

 勝利の方程式を作る人

社員の出世の関門は三つ。第一、いい仕事をして認められる。第二、上を補佐し上に頼られる存在になる。第三、経営に参画する社長の側近になる。社員の出世の到達点はナンバー2である。社員の目標は大局観先見性を養って1+1=11といった勝利の方程式を作れる人になることである。


支える人が現れれば幸運な人

一人でもいいところまでいく。

パン屋、ラーメン屋、美容室、花屋、居酒屋…。繁盛店はみな創業者が有能である。情熱があり勤勉、努力を惜しまない。固定客がつき、遠くから足を運んでくれる人も出てくる。

一人ではそこまでである。

身内にやる気があるまじめな〝後継者〟がいれば店は続く。店で腕を磨いた店員がいてその〝代わり〟が育っていれば「のれん分け」して別の場所に同じ屋号で同じ商売をする権利を与えた。店を存続させる賢明な方法である。実際、本店は廃れたが分店は栄えているという例は多い。

人が育って盛りを過ぎて衰えるパターンは大差ない。百歳まで頑張る人と五十歳で終わる人が〝大差〟である。仕事に打ち込んで成果を上げられる期間は長くて八十年、短くて三十年で差は五十年。これは現在の数字であり、百年前までは誰もが盛りは三十年だった。三十年働いたら隠居して後に道を譲るのが習わしであった。

個人商店だけでなく会社経営も同じである。有能な経営者が、同時にスタートしてすぐ息切れする社長を尻目に突っ走って会社を大きくして長くて五十年。ガクンと力が落ちて水平飛行になり、やがて下降線をたどることになる。やはり一人ではそこまでである。

しかし日本の会社は他国の会社と比べて、維持継続して百年二百年と長く生き続ける会社、あるいはさらに飛躍して盤石の大企業になる会社が少なくない。

話は横道にそれるが、最近個人競技のスポーツでトロフィーやメダルを得て脚光をあびた選手がコーチを解任する〝事件〟がいくつもあった。

荒田は「こうした選手は二度と優勝できないだろう」と思い、人にも言った。荒田の予言どおり、一人は負け続けて引退、一人はかつて優勝した大会でも一、二回戦で敗けて精彩を欠き、一人は常に予選落ちで名前も出なくなった。

コーチは勝たせるため厳しい練習を強いる。選手の精神と肉体を鍛えるのが使命である。選手の甘えを拒絶し、選手の泣きごとは聞かない。指示や叱咤激励の言葉はきつい。まるでいじめのようであり、第三者が見ればパワハラである。

泣きながら耐えて優勝した。マスコミやまわりがちやほやする。「もういやだ、あのコーチと一緒にはやれない」と本音をもらす。以後コーチなしか別の優しいコーチと契約して練習するが、心身はゆるむばかりでもっと厳しい練習を積んでいる外国選手に勝てない。イヤなコーチと決別した時点で選手生命は終わっている。自分一人の力で優勝したと思っている幼い心を諫(いさ)め諭してくれる人はいない…。

才能あるプロの選手でも、支えてくれる人、助けてくれる人、さらに強くなる勝利の方程式を提供してくれる人、道を外れそうになった時に「それは違う」と誰も言ってくれない厳しい指摘をしてくれる人が必要である。

一代で大企業をなした人、百年二百年輝き続ける会社を築いた人、この経営者は運がいい人である。

ずっと一緒に仕事をしてきた社員の中からナンバー2の資質を持つ人が現れた。社長はその人を〝人材〟として好遇した。任された仕事で十分の成果をあげるだけでなく、会社をよりよくする積極的な発言と行動をして社長の厚い信頼を得た。時には耳に痛いことを言い社長を苦笑させた。

社長は率直に苦言を呈するこの社員をスポーツ選手がコーチを解任したように遠ざけることはしなかった。さらに身近に置いて、共同経営者のごときナンバー2として遇した。

会社が成功の軌道に乗ったのは社長の命が衰退期に入る前にナンバー2を獲得できたからである。この幸運が成功につながった。

夫婦で商売をしている店は潰れない。どちらかが相手を支えるナンバー2の役割を果たしているからである。会社も同じ。社長を補佐するナンバー2が存分に力を発揮する会社は強い。


ナンバー2になれる社員は誰

どの会社にも三種類の社員がいる。会社中心の社員、仕事中心の社員、自分中心の社員である。

どの会社にも自分中心の社員はいる。仕事より自分の時間優先、家庭第一の風潮は現在国が政策として推奨している。

女性の産休、育休は定着した。男性の育休はまだ一割程度で、これを先進国並みに高めなければならないと厚労大臣が言っている。

ある社長。「課長が幼稚園の入学式に出るので休ませてくれと言ってきたので許可しますと報告してきた。私はそんな休暇願いは受けつけるなとつい怒鳴った。課長はそういう時代なんです、断れないんです社長、と言う。私は黙ってしまいました」。

こうして小学校の入学式も休む。子供が風邪を引いても休む社員が〝公認〟されつつある。

郵便局、NTTドコモ、JR各社は今も役所や公社時代の〝働かない〟体質が残っている。愛想だけはよくなったが、仕事が遅い。苛立つ客の気持ちを察することができず、マイペースで動く。終業時が来ると一斉に退社。

国は一般企業にこんな人を優良社員として処遇してほしいと求めているとしか思えない。会社の中での自分中心の社員の比率はこれからも年年高くなっていく。

仕事中心の社員は少なくなっている。家庭を顧みず捜査にあたる刑事がよくドラマに登場する。妻子が父親を尊敬して耐える筋だったが、最近は非難され妻子に捨てられる哀れな男に描かれている。

自分が選んだ仕事、好きな仕事に寝食を忘れ時間を忘れて没頭する。制約の多い会社勤めの人にとってこれが叶えば理想的である。

大半の社員は自分が選んだ仕事をしているのではなく、命じられた仕事をしている。成果をチェックされ、競争にかりたてられ、優劣の評価を受けている。仕事に集中しているといっても、本物の仕事人間ではない。技術者や職人にはいるが、ホワイトカラーに仕事人間は少ない。

仕事中心に見えるが会社中心の社員である場合が多い。六〇%が自分中心の社員とすると残りは全て会社中心の社員である。

社員は仕事より会社に密着している。会社の業績に敏感に反応し、会社の将来に対する不安や希望をつねに頭の一番大事なところに据えている。日本の企業の強みはこうした会社人間が多数存在している点にある。外国(欧米や中国など)にはこんな会社人間はあまりいないのではないだろうか。

この会社人間は全員ナンバー2になる資格を備えている。

ナンバー2に必要な資質とは①会社に対する忠誠心②社長を補佐する義務責任感、③会社の将来を見る大局観先見性である。

有資格者の会社人間がこの三点で卓越すれば、ナンバー2の地位に到達できる。

会社を辞めて起業する人は別として、一般の社員の出世競争のゴールはナンバー2である。社長とほとんど横並びの共同経営者になることが〝純正の目標〟である。


歴史に残るナンバー2の紹介

問題は社長を補佐する義務感、責任感である。

もちろん補佐は〝盲従〟ではない。何でも「はい、はい」言うことを聞いて、社長に気に入られようと神経を遣うイエスマンの「茶坊主」は本当の補佐役ではない。

社長が何か探していたら手伝うとか、喉が乾いていそうだと察して飲み物を差し出すといった気遣いは補佐の範疇(はんちゅう)だが、あまり重みのない片隅の部分である。

「補佐」とは助けること、支えることであり、痒いところをかいてあげる程度の軽い行為ではない。トップに負けない大局観先見性を発揮してトップの弱点を補い、戦いを勝利に導く方程式を提供する。強い組織を維持するために緩んだネジを締め直す、トップが見逃がしている欠陥を見つけて退治するといった経営の根幹を支える行為である。

「勝利の方程式を作る ナンバー2になれる人 なれない人」染谷和巳 畠山裕介+アイウィルペンダント著(高木書房刊)。

当社専務畠山は五年近く毎回ヤアーッのコラムに、歴史に残るナンバー2を紹介してきた。最近とみに評判がよく多くの経営者から「本にしてくれ」と言われた。

お客様の頼みとあれば無下にできない。

だが分量が百ページ程で少ない。あと五年書き続ければ一冊の本になるが、畠山は目下大病で入院中。執筆どころか命の危機にさらされている。コラムもこの六月で終わる。

そこで私とアイウィルの社長や講師など社員(ペンダント)が百五十ページ分執筆して補った。

秋に出版される。「よし、私はナンバー2になるぞ」と決意する社員にはこの本が参考になる。


<< 前のページに戻る