株式会社 アイウィル

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染谷和巳の『経営管理講座』

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

「経営管理講座 402」   染谷和巳

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 自己啓発による勉強法

自分の時間をバクチや女(または男)に遣い果たしている人、乙に構えた低徊(ていかい)趣味の人は出世しない。出世の階段を昇る向上心がないからである。向上心があっても伸びない人、出世できない人もいる。仕事以外の勉強、自己啓発の勉強の仕方が間違っていたりムダが多過ぎるためである。


酒女金で失敗する社員の中に

会社人間は誰でも会社のナンバー2になる資格を備えていると言ったが、素質、能力、仕事の実績がありながら、登りきれずに終わる人が多い。落下して会社から消えていく人もいる。

失敗の原因は金、女、酒である。

新人や下の人は関係ない。これで失敗するのは幹部である。社長が買っていた部長課長の管理職である。

会社の金を数千万円遣い込んでいた。商品を横流ししていた。これを知った社長は愕然として「まさか、あいつが」と絶句する。

人を見る目がない自分にいや気がさす。信じて疑わない〝甘い〟自分がいやになる。

この事件で倒産することもあるが、損失が軽ければ、こうした犯罪を防ぐ改善をして立ち直ることができる。お金の犯罪は白黒がはっきりしていて処理解決が早く後遺症も残りにくい。

難しいのは男女関係である。

男と女が毎日同じ場所に、しかも狭い空間に集まれば磁石のようにくっつくのは自然である。既婚未婚を問わず、老若を問わず、上下を問わず気に入った相手に惹(ひ)かれる。

お互いに〝好意を持つ〟段階で納まっていることは稀(ま)れで、会社の納会や祝宴など一緒に酒を飲む機会につい濃厚接触してしまう。

相手の頭と体が期待して(想像して)いたものより劣ると一回きりで終る。相手に「また」とせがまれてもその気になれない。素っ気なく背を向ける。

諦めてくれれば〝なかったこと〟になる。魅力に乏しければ次の相手はすぐには現れない。男はストーカーになる。女は会社を辞める見返りに社長に告発する。あるいは自分でしないで仲間に話して代りに内部告発してもらう。これで大抵の場合、部課長は命を絶たれる。このような「女による失敗」は掃いて捨てるほどある。

荒田は男女の仲には鷹揚(おうよう)である。

前に勤めていた会社で社長が外国人の女を囲っていて、偶然二人の濃厚な場面を見てしまったが、奥さんにも誰にも漏らさなかった。

ある会社の「新社長就任」の挨拶状に驚いたことがある。一五〇人の社員がいる会社の社長は務まらないと思う人の名前があった。

新社長は会社がまだ小さかった頃、十八歳で入社、汗を流しほこりにまみれて働き、社長にかしずき、三十年間貢献してきた男である。決め手は創業社長と同じ小さい島の出身だという点ではないかと荒田は思った。

案の定、新社長は舞い上がり、事務のかわいい女の子に手を出した。女の子も舞い上がり、社長の権威を笠に威張り始めた。気に入らない仲間の配置換えを社長に頼んだりした。二人の言動は皆を不愉快にした。

ベテラン女性社員が創業者の会長に訴えた。会長は事実関係を調べ、社長を地方の営業所長に降格した。社長就任後ちょうど一年であった。

社長は耐え切れず退職、女の子も辞めた。社長は退職の本当の理由を家族に言えなかった。妻も子も「ひどい会社だ」と恨んだ。

荒田が会長ならやはり同様に社長を左遷したであろう。

しかし自主退職はさせなかった。この屈辱に耐えて再び上昇できたなら、人間としての器が大きくなり、本物の経営者になる。貧しい島から出てきて苦労してきた同士である。〝この程度のこと〟で離反したくはない。「辞める」と言ったら「降格の本当の理由を家族に言う」と脅しても従わせる。

恋愛、浮気、不倫などの男女の仲は社内の空気を汚す。これを〝風紀を乱す〟という。

風紀を乱してはいけない。乱さなければいい。社内はもちろん、家族にも誰にも分からなければ(有り得ないが)いいと思う。

人は解っていても危ない橋を渡るもの。邪心を制御し切れない弱い意志を持つもの。人生を棒に振るかもしれないことをしてしまうもの。荒田は人間をこう理解している。

品行方正、どこをつついても一切汚点がなく、恥じることは一度もしたことがない、こうしたロボットか石のような人を立派な人だという〝人間観〟を荒田は持っていない。

こうした人は実は小さい人であり、犯罪者は除外して、様々な失敗をして恥をかいて這い上がってきた人の中にナンバー2になる大きい人がいると荒田は思っている。


目標をナンバー2に定めたら

ナンバー2の第一条件は「忠誠心」であった。

会社人間に忠誠心が全くない人はいない。しかし功利と打算(目先の損得)の上にまとった薄っぺらなもの、つけ焼刃のすぐはがれてしまう偽物の場合が多い。

本物の忠誠心を持つ人はどんな人か。自分の親や祖父祖母、それにつながる祖先を心から敬う人である。また日本という国に誇りを持つ人である。

仏壇に手を合わせない人、先祖の墓に花をたむけない人、他の国をほめて自分の国をダメな国だとくさす人、暗黒史観、自虐史観で歴史を見る人の忠誠心は偽物である。

日本は世界でも優れた国、誇り高い歴史を持つ国である。非常時には政治家、軍人だけでなく全国民が国のために力を尽した。親は懸命に働いて子を養い育てた。

自分を起点に親、祖父母、曽祖父(そうそふ)とたどっていけば、今自分がいることに感謝する気持ちが強くなる。肉親のまわりの出来事や社会を知れば日本の歴史が解る。庶民一人ひとりが立派な国民であり、優れた日本人であることが解る。

歴史を知らない人、学ばない人は忠誠心を育てられない。祖先に対する敬意と国に対する誇りは歴史によって培われるからである。

歴史に関する本を読むこと。

自己啓発の柱は読書である。ただ読むだけでは効果はない。人としての成長もない。

効果的自己啓発の三カ条

一、目標(目的地)を決めて、そこへ至る道を選ぶ。脇道やムダ道が多いので。

二、強制を受け入れ、自らに読書量や時間の制約を課す。これをしないと中途で挫折する

三、評価を受けテストで到達度を測る。これがないと勉強意欲が高まらない。

たとえば最近の経営者養成研修では歴史を学ぶなら渡部昇一の「日本史から見た日本人」を先に読みなさい。そうすれば吉村昭の「零式戦闘機」、司馬遼太郎の「坂の上の雲」山本七平の「私の中の日本軍」を楽に深く理解できると指導している(32期岡島研修生の体験発表に基づく)。これが一条の目標を決めて、そこへ至る道を選ぶ、である。

二条三条はまわりの人の協力を仰いだり、研修を受けるなどしないと難しい。


会社への忠誠が愛国心を育む

一、金銭面の公私混同をするな

一、社内に男女関係を求めるな

一、酒席で社員をいじめるな

これは一般の幹部が守らねばならない〝心得〟である。社長がこれを冒せば例の新社長のごとく消え去らねばならなくなる。社長や上司がこれを冒し黙認されると社員がまねる。しだいに組織が機能しなくなり、会社が自分中心の社員のたまり場になり、やがて消滅する。

忠誠心のある人にとってこの三つの基本的戒律は当り前のことであり、いちいち意識しないで守っている。問題はその後である。

学校教育は国に対する忠誠心を涵養(かんよう)する教育を全く行っていない。幾多の例を挙げて「あなたもこの人のように考え行動する立派な人になるのです」と教えるのが、公民や道徳の授業のはずである。先生は人権重視と個性尊重、弱者への思いやりを教えて終っている。

まわりの国の独裁者が獰猛(どうもう)な牙を剥いて襲いかかってきても命をかけて戦う人がいない。国をなくし家畜のように檻に入れられても、目に涙をためて「モー」となく牛のように悲運を嘆くばかりである。

家庭も学校も教育しない愛国心を私たちが持たないのは仕方ない。しかし仕方ないでは済まない危急の時が来ている。

逆をたどる。

家族愛は家族を大事にし家族を守る。家族愛のある人は村を大事にし村を守る。それが家族の平安と幸福につながっているから。

会社への忠誠心を育めば、自然に国への忠誠心も芽生え育つ、先に述べた自己啓発による歴史の勉強により、時間はかかるが先人たちに並ぶ愛国の精神が身につく。

これから会社のナンバー2になろうと志す人は、忠誠心を身につけるにつれて、自然と国を思い、国を支える意識を強く持つ人になる。「国なんか、会社なんか関係ない」と白けている自分中心の社員を指導教育できる人になる。


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