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染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 395」   染谷和巳

 

 大局観と先見性を磨く

経営管理講座

 

会社では社長とナンバー2のどちらかが世論を超越して〝原発推進派〟であることが求められる。もうすぐオール電気自動車になる。火力発電で作った電気で自動車が動く。CO2の削減が不可能になり、電気料金が今の数倍に上昇し、電力不足による長期大停電の危機が迫っているからである。

 

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電力戦争が始まっているのに

 

子供の頃よく停電があり、突然の闇を楽しんだものである。

一、二分で戻る場合が多かったが、長くなると蝋燭(ろうそく)をつけ、それを囲んでまた違う雰囲気にわくわくした。電気がつくとほっとしてお互いの顔を眺めた。

当時、家庭で電気は明り、つまり電球のことであった。「電気を消して」はスイッチを切って暗くしてくださいの意味であった。

今も「電気を消して」「電気をつけて」は電灯のスイッチを切る入れるであり、昭和二十年代と同じ意味で遣われている。しかし停電は当時とはまったく様子が違う。

停電になると電灯が消えるのは当然だが、テレビ、冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機、掃除機、エアコン、パソコン、IHクッキングヒーター、そのほか電線につながっているスイッチや家電用品はすべて止まる。停電時間が長くなれば深刻な事態に陥る。

それでも家庭の被害は小さい。

企業、とりわけ製造業の経済的被害は甚大である。機械はすべて電気で動かしている。石油などを動力としている機械も制御は電気で行う。太陽光などの自家発電機や蓄電池を備えている所もあるが、停電が長引けば頼みにならない。

日本の産業用電気料金は世界一高い。アメリカの三倍、ヨーロッパ諸国や韓国の二倍である。

かつて日本企業の海外進出は安い人件費が目的であった。その後自動車メーカーなどはアメリカやヨーロッパに工場を作った。人件費は高いが電気代が三分の一、二分の一というメリットがあるからである。メーカーは日本の電気料金が高いため海外に逃げ出したという見方ができる。

家庭用電気料金も日本は世界十ヵ国中ベスト5に位置している。

現在トップで日本の二倍の電気料金のドイツは原発をやめて自然力発電中心で電気を作り、不足分はフランスの原発製電気を輸入している(フランスは原発中心で電気料はドイツの二分の一)。

日本の電力構成比は福島の原発事故を境に大きく変わった。

それ以前は石炭石油天然ガスの火力発電が六〇%、原子力三〇%、水力一〇%。

事故の後の政府の「原発ゼロ」の命令を受けて電力会社は廃止予定だった老朽火力発電所を再稼働して火力九〇%、水力一〇%にして供給量を維持した。

昨年度は火力七六%、水力八%、原子力六%、太陽光などの自然力発電一〇%。

事故がなければ原発が五〇%を越え電力の柱になるはずだった。現在は自然力発電を伸ばすことに力を入れているが、まだ主力は火力発電である。

ここ十年石炭石油天然ガスの輸入価格が低値で安定していたので電気代の高騰を避けることができた。これにより「原発怖い」「原発ゼロ」の声が支持され原発再稼働や新設の声はかき消された。

今年になってから原油価格が上昇し始め、輸入価格は七〇%以上値上がり、合わせて天然ガスや石炭の価格も上昇。これにより電気料金も上がり始め、東京の場合年初より一八・一%、金額にして一、一六八円(一般標準家庭の場合)高くなった。

一ヵ月一〇〇円の値上げに驚く人はいない。私たちは水の温度を少しずつ上げていくと熱湯になるまで危機を感じない〝ゆでかえる〟になっていないか、自問自答する時が来ている。

日本はドイツに習って自然力発電拡大の道を進んでいる。日本がドイツを抜いて電力料金世界一になる日は遠くない。と同時に電力不足で停電が発生、電力会社間の電力融通もきかなくなり、全国長期停電という惨事に至る可能性もある。

電気の時代である。

電気が空気や水と同価値を有するものになっている。日本だけでなく世界中の人が電気を中心に電気に囲まれて生活している。空気がなければ水がなければ生きられないように電気がなければ生きられない時代である。

ニューヨークの五時間や二十五時間の地域的停電で〝大停電〟とニュースになる。もしこれが三日、五日そして十日の停電となったら人が何万人も死ぬし、天文学的数字の各種被害が記録される。

これからは安くて潤沢な電気を持つ国が富み栄え、電気が欠乏し料金が高騰する国が衰える。電気の時代は世界の国々を電力戦争に参戦せざるを得ない状況に追い込んでいる。

 

 

 

なぜ原発再稼働が進まないか

中国は原子力発電を主力にする方針で原発の建設を急いでいるが、一基完成するのに二〇年近くかかるので百基の目標を達成するのはまだ先の先である。今は火力中心でいくしかない。

最近二十の地域で停電が発生、工場が操業停止になり被害甚大というニュースがあった。良質の安い石炭を提供するオーストラリアに腹を立てて輸入禁止にしたのとCO2削減のため石炭火力発電を抑制するという時期尚早の政令を出した。軌を一にして洪水で多くの炭鉱が閉鎖され、石炭不足で価格が一年で三倍になったためである。

ヨーロッパはロシアから天然ガスをパイプラインで輸入しているが、その価格が一年で四倍に急騰し、石炭から天然ガス発電に移行中の国々は電気料が高騰、さらに風が吹かない日が続いて風力発電の発電量がゼロに近くなり追いうちをかけた。やはり大停電の危機が迫っている。

発電コストは一キロワットの電気を作るのに自然力発電が三〇円、火力発電が平均一五円、原子力が一〇円である。火力発電は石炭や天然ガスの価格によりもっと高くなることがある。お天気頼みの自然力発電は計算ができず電力の主力にはできない。

にもかかわらず「反原発」「脱原発」を主張する声は強い。河野太郎や菅直人は原発ゼロの会の会員であり、この会には名の知れた国会議員が会員として多数名をつらねている。

今年の経産省の「エネルギー基本計画」では二二%を原子力発電にすると謳っているが、随所に「安全」「安全」を強調し、原発の新設はもとより再稼働の積極的推進すらもり込まれていない。「二万二千人の避難民を出した大災害を反省して」などというエネルギー計画とあまり関係ないことを力説している。前環境相の小泉進次郎が「可能な限り原発低減、再エネ最優先」の方向に変えさせたと言われている。「原発怖い」は人々の素直な気持ちであり、それを煽り立てれば選挙で投票してくれるからである。

人は目先の損得と喜怒哀楽の感情で動く。候補者はそこを突いて票を得る。当選しなければ政治家として仕事ができないからである。

政治家や経営者などの指導者は人の心の痛みが解らなければならないが、つねに大局観と先見性を持って三十年五十年後あるいは百年後に「あの人のおかげで今の幸福がある」と言われる存在にならなければならない。目の前の人の不満や反対に流されて、将来あるべき姿を捨ててはならない。

大正十二年(一九二三)の関東大震災の後、当時の東京市長後藤新平は新橋から上野に至る幹線道路の建設を提案した。将来の交通量を予測して道巾一〇八メートルにと。市民は「後藤の大風呂敷」と揶揄(やゆ)し、議員や役人はこぞって反対した。

昭和三年(一九二八)道巾が半分以下に削られた〝昭和通り〟が完成。東京は昭和十八年に都になったがその後大渋滞道路となり、後藤の道巾一〇八メートルが大風呂敷でなかったことが証明された。

大局観先見性は今の自分の安全と快適しか頭にない人には理解されにくい。説明を尽くしても頑として反対する。本物の指導者はこの反対に屈することなく進む。

政治家や経営者の中に「すみやかに全原発を再稼働せよ。小型でもいいから安全な原発をどんどん作れ」と言える指導者がいない。

 

 

 

ここがナンバー2の出発点だ

三十年後、いや十年後でいい。会社のビジョンを克明に描くことができるか。これができる社長は優れた経営者である。

創業社長の多くは売り上げを伸ばすことと事業の拡大で頭が一杯でそのための努力は惜しまないが十年後の会社のビジョンは苦手である。また二代目、三代目は苦労知らずの坊ちゃん嬢ちゃんが多く、遊びや趣味の方を向いていて経営に不熱心、ビジョンなど真剣に考える気もない。

こうした会社ではナンバー2が社長に代わってビジョンを描く。

ビジョンは大局観と先見性がないと生み出せない。この能力は天才に与えられている特別なものではない。誰でも歴史を十分学ぶことと新聞を毎日精読することによってそこそこの力は身につく。ナンバー2はここから出発すべし。