アイウィル 社員教育 研修日程

 

染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 393」   染谷和巳

 

 居なければ探し育てる

経営管理講座

 

十二月十八日(土)開始の「ナンバー2養成研修」は九月末に既に四名の申し込みがあり最小催行人数七名は越えそう。訓練式合宿研修が忌避される現在、有言実行が主力になっているが、その形を踏襲した〝対象者限定〟の日帰り研修である。さて参加させるとすれば思い浮かぶのは誰?

 

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裸の王様の自分に気づかない

 

信越地方にある精密部品メーカーG社は社歴四十三年、社員四百名の優良企業である。

本社工場の近くに大工場が二つ、他に工場や営業所などの拠点が全国に十数ヵ所ある。

本社の中に営業本部があり、創業者のN会長が指揮をとっている。会長は技術畑の出で、二代目も三代目の現社長も技術系。取締役も工場長や技術部長が占めている。

会長直轄の経営本部(現社長は別の場所にいる)のスタッフは常時五?六人で百億円企業としては極めて少ない。というのも入社した本部スタッフは会長の薫陶を受けて、十年もたつと工場や技術部長の下に配属され課長の地位でその部門の総務、人事、経理の責任者になる。

会長の厳しい経営姿勢と考え方を直接叩き込まれたスタッフが場所の離れた拠点の長の補佐に任ずる。うまい人事だと荒田は感心したものだった。

経営本部の責任者は業務部長。工場の管理者や外部招聘のベテランが選ばれる。会社にいないことが多い会長の補佐役である。

過去、業務部長のうち取締役になったのは唯一人、銀行から来たM部長だけである。

N会長が荒田に言った。

「荒田さんは自分の意見をはっきり言う。歴史観や思想では譲れない部分があって当然。ケンカみたいになったこともあった。普通は迎合する。客に反論して怒らせて、切られてしまうのが恐いからである。私はそういうあなたが気に入って二十年以上おつき合いさせてもらっている。

業務部長は私の手足となって動いてもらう人だからイエスマンがいい。いちいち反対されたら仕事にならない。一を聞いて十を知り『はい、かしこまりました』と行動することが肝心。だがイエスマンは盲従する。おかしいなと思っても指示どおり行動する。案の定失敗。会長の言うとおりにしたのだから自分に責任はないという顔をしている。事前に私が『どう思う?』と聞いても何も言わない。聞かれた時は自分の意見を言えばいいのに、萎縮してしまっていて頭が働かないのだろう。

その点M部長は私を怖がらなかった。忠実に仕事をしたが、時々『待ってください、会長、もう少し考えたほうが』と意見した。新しい営業所を出すとか、外国の会社と取り引きを始めるといった大きい決定を告げる時である。『なぜならば』と案件の欠点を挙げて反対した。私が説明して納得させることが多かったが、M部長の意見で助けられたことも少なくない。

それで取締役にした。M部長は定年で引退したが、これからも経営本部から取締役や社長が出てきてくれることを望んでいる」。

ワンマン経営者の独走に手を広げて「待った」をかけるのは勇気がいる。社長は自信のかたまりで人の意見など受け入れない。「うるさい」と遠くへ飛ばされるか降格されるのを覚悟しなければ異議申し立てはできない。

社長の中には成功体験が自信を作り、それが強く大きくなり、社会的に常識外れの言動をするようになる人がいる。裸の王様である。

長年いる社員は「またか」と苦々しい気持ちで我慢するが、新人などはさっさと辞めてしまう。人が逃げていく会社、気持ちよく働けない会社になる。

もちろんワンマン社長がみな裸の王様になるわけではないが、自分の奇癖や変人ぶりをまわりの人がいやがっていることに気づかない社長が少なくない。

その点、部長の意見、異見に耳を傾けるG社のN会長はまわりの支持と信望を得、会社の健康を維持することができた。

単なる手足としての補佐役ではなく、トップを助け会社をよい方向に導く本物のナンバー2がいないことに危機感のカケラも持たない人、「私」と手を挙げている候補者を煙たがって自分の手で潰してしまう人が多いのである。

 

 

社長は浜崎の言うことは聞く

 

中堅ゼネコンの鈴木建設㈱の専務、常務、秘書課長などの幹部はみな社長の顔色を伺って腰を低くするイエスマンである。

幹部会議で社長は意見を求める。専務が自分の意見を言う。社長が「それはこの部分を見落としている。現実的ではない」と言うと専務は「はっ、おっしゃるとおりです」とうなずき、うなだれて黙ってしまう。社長は一方的にまくし立てる独裁経営者ではないが、年をとってきたせいもあって、幹部がもっと深く考えもっと真剣に仕事に取り組んでほしいと願っている。自分の足りない部分を補って、第二の経営者の自覚を持って社長と会社を動かすナンバー2になってほしいと思っている。

鈴木建設にナンバー2はいない、と鈴木社長は思っている。

いるのだ!

営業三課の平社員浜崎伝助。仕事より釣りを優先し遅刻常習犯の不良社員。しかし時折他の社員にできない大きい仕事をし、社長に頼まれれば社長代行もする。また営業マンの立場から社長に意見し社長を動かす。

幹部が社長の前で小さくなっているのに浜崎は大きい顔をしている。社長は浜崎の言い分を聞いて考えを改め指示を修正する。

浜崎は社長の鈴木一之助を「スーさん」と呼び社長は浜崎を「ハマちゃん」と呼ぶ。浜崎は釣りの師匠で、社長はその弟子。この上下関係が釣りだけでなく仕事の上でも出てきてしまう。上司が手を焼く不良社員は実は会社の命運を分ける大仕事を成し遂げる有能な営業マンであるのみならず、社長を支える会社のナンバー2の役割を果たしている。

かつて私は黒澤明監督の映画『七人の侍』を〝統率力の真髄を描いた名作〟と評したことがある。この説に荒田はもとより多くの社長方が「なるほど」と感心してくれた。

四十三本の「寅さん」には及ばないが、二十二本のシリーズを数えた『釣りバカ日誌』はこれに次ぐ人気のどたばた娯楽映画である。

映画は会社の机の中が釣り道具で埋まっているところや、釣りのために地方出張の仕事を選ぶ浜崎の釣りバカぶりを観客に印象づける。この〝ふざけた野郎〟がふざけたままの姿でキラリと光る仕事をし、社長の窮地を救う。

荒田が言う。

「釣りバカが優れたナンバー2だという説に賛成です。数ある重役や部課長の中にいないで、素行のよくない平社員が会社のナンバー2だという観点は新鮮です。鈴木社長は浜崎を専務に抜擢すればいいのに。それでは意外性がなくて映画にならないか…」

 

 

会長がナンバー2になればいい

 

平成十二年春、無責任なお客様が「この新聞はためになる。コピーして全員に読ませている。四ページにしたほうがいい」と言ってきた。それまでも年一回、経営者研修卒業生の記事を載せる十月号は四ページにしたが後は二ページ。〝言うは易し、行うは難し〟である。しかし十一月の一四四号から毎号四ページにして現在に至っている。

最近また無責任なお客様が「私は会長になって完全に裏に引っ込んだ。社長に全て任せている。あなたは会長になっても表に顔を出している。この一面の講座は会社の顔だろう。これは社長が書かなくては。社長に書かせてあなたが手直しすればいい。あなたが裏方にならなければ社長が育たないぞ」と言ってきた。

そうしたい。そうする時期に来ている。しかし社長の文が毎月一面に載り、ほっと安心した時、間違いなく私の頭の毛は一本もなくなっている。裏に回って何もしないなら楽だが、裏から太い柱を支えるのは骨が折れる。しかしやります! 会長、貴重な忠告をありがとうございます。

社歴のある会社なら大抵会長がいる。

公金をばくちなどで湯水のごとく遣うぼんぼんや会社をほったらかして趣味に興じる社長は、江戸時代の〝主君押し込め〟のように会長に祭り上げて静かにしてもらうというケースがある。

これは稀で社長を後継者に譲って自ら会長に退くのが一般的。

会長になるとは人事権などの権限を委譲することである。会長になっても以前同様に先頭に立って権限行使するなら社長が意欲をなくす。

自分の知識経験から社長に助言忠告をする。社長は経営者として未熟なので間違いやむりむだむらが多い。社員は社長の未熟や欠点に接しても、内心ばかにするだけで面と向かって指摘はしない。それができるのは会長だけ。もし会長が社長に甘く、「だめだ」とはっきり言えないならその会長はナンバー2の資格はない。

会長は社長を一人前にする使命を負っている、『ナンバー2の条件』を備えている人である。