畠山裕介の『人と話の交差点』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
「人と話の交差点 331」 畠山裕介
補佐役の人間的特質
-ナンバー2(58)-
歴史に残るトップとナンバー2はあまた存在する。それらの中でも日本人の琴線に触れるベスト3は以下だろう。
第一位、ホンダの創業社長本田宗一郎と副社長藤沢武夫。
本田はモノづくり一辺倒の技術屋。製品開発以外のすべてを藤沢が掌握した。本田の実印まで藤沢が管理する信頼関係があった。
藤沢は技術者としての本田の才能に惚れていた。そして「本田を世界一の男にする」という夢に突き進んで行った。
第二位、豊臣秀吉とその弟秀長。
秀吉は智力、胆力、行動力があって愛嬌もある。ただしすぐ調子に乗る危なっかしさがある。秀長にはそれがよく見えていた。「兄者が大出世するには、おれが要る」。秀長はこれのみを、みずからの存在理由とした。
秀長はおのれを消し去った。無私、無欲、無名に徹した。兄の天下盗りと豊臣家の安泰のためだけに生き、そして世に知られることなく死んだ。
第三位、新選組局長近藤勇と副長土方歳三。
近藤も土方も武士になりたかった。そのため新選組を強くする必要があった。だが、隊士はほとんどが食い詰め浪人やならず者。
土方は規律と罰則重視の恐怖政治で新選組を機能的殺人集団に作り変えた。すべての苦い規則や命令は土方から出た。近藤を神棚に祭り上げ、いっさい傷がつかぬよう配慮した。泥は自分がかぶる、下からの憎しみはすべて自分が受ける。土方のこの覚悟がなければ、新選組は存在しえなかった。
このベスト3は私の独断だが、同感してくれる人は多いと思う。
稀有なナンバー2たる藤沢、秀長、土方に学ぶべき人間的特質を三つだけ挙げる。
一、役割意識に徹する。
ナンバー2の役割はトップの長所を伸ばし、短所を補う。トップに代わり組織を守り、永続成長させること。すべての意思決定や行動が、この役割意識に基づいていなければならない。
二、トップに惚れよ。
ナンバー2はトップを誰よりも深く理解すること。個性、好き嫌い、ものの見方や考え方、人間性などを熟知すること。トップも聖人君子ではないから、短所や欠点もあろう。それらには片目をつぶる。
〝いろいろあるけど、やっぱり社長が好きだ〟。これがナンバー2に求められる立ち位置である。
三、正義派ぶるな。
上の間違いを諫める。それはいい。ただ社員の側に軸足を寄せすぎての諫言はやめよ。自分だけいい格好するな、正義派ぶるな。
いざとなれば社長と二人だけになっても、力を合わせて戦う。これがナンバー2の矜持である。