アイウィル 社員教育 研修日程

染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 348」   染谷和巳

 

 

それ行け働き方改革

経営管理講座

 

社員が退社後や休日に副業する。お金のため仕方ないことである。ある地方メーカーの専務が怒っていた。「毎日早く帰るし農繁休暇もとる。親に聞くと毎日夜は遅いし畑を手伝ったことはないという。毎日パチンコしてたんです」。この社員を人材として肯定するのが働き方改革なのか。

 

 

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乗車拒否奨励のタクシー会社

 

タクシー。

手を挙げると「回送」で行ってしまう。また「回送」つぎも「回送」。いくら待っても来ないので駅まで歩いてやっと乗った。

「何で回送ばかりなんだ」と聞くと、頭のいい説明のうまい運転手がこう答えた。

「会社によって勤務のシフト時間は違いますが、時間厳守はどこも同じです。特に遅刻がうるさい。ウチの場合、一時間の遅刻が月三回あると減俸です。出社時ではありません。帰社時の遅刻です。決められた時間に会社に戻る。会社への帰り道で客を拾ってもし帰社時間が遅くなったら処罰される。だから『回送』の札を出して一目散に帰るんです」

「もし遠方までの上客だったら大損じゃないか」

「はい、今はルール最優先なんです。以前は水上げ(売上げ)一辺倒でした。今は安全と従業員の健康が第一で、売上げはうるさく言われません。お客様第一主義ではない。客がいても乗せない。たとえば東京のタクシーが茨城まで客を乗せて行ったとします。帰りは空車だから客を乗せればむだにならない。万一東京へ行く客ならラッキー。そんなことは本当に万一です。行き先を聞いて『行かれません』では〝乗車拒否〟になる。乗せた客が茨城県内で降りたとします。これがルール違反。これが売上げ記録に残ります。上司はそれを見て叱責、もう一度あれば処罰される。だから『回送』で都内まで戻ってきてから『空車』にする。営業地域が決まっていて地域外で仕事ができない。つまり『回送』は乗車拒否のサインです。これがルール第一の今のタクシーの現状です」

以前は帰り際に一万円二万円の遠方客を乗せると一日がバラ色になった。二時間遅れて戻ると上司が祝福してくれた。今は〝不良ドライバー〟の烙印を押される。

「手書きで営業報告書を記入していた時はこんなことはなかった。今も手書きのタクシーがありますがそういう会社はルールはおおらかです。売上げが自動のレコーダーになってから管理が厳しくなりました。会社は本音は売上げを伸ばしたいが、労働基準監督署や国交省が調べにくる。労働時間を守っているか、過重労働させていないか、地域外で稼いでいないか。レコーダーをチェックすればみな判ってしまう。役所に睨まれると、指導、勧告など段階があるが、ブラックリストに載って、最悪の場合、免許停止になる。そのため経営者は『乗車拒否していいから時間どおり戻って来い、地域外の遠方からは客がいても乗せないで回送で帰って来い』とドライバーにうるさく言っているんです」

タクシー業界が勤務時間と勤務地域に厳格になったのは最近のことだろう。そう、「働き方改革」が主要政策として登場してからである。厚労省、文科省、国交省やその下部行政機関が会社の調査と指導に走り回るようになったのはついこの一年前からである。以前から労働環境劣悪と言われていたタクシー業界は役所にとっても指導のしがいのある相手で、みるみる〝成果〟が上がり、売上げ第一、お客様第一を吹っ飛ばして、勤務時間縮小第一の優良企業に変えることができた。

もう一つタクシー。

霞が関で「国立劇場まで」と言うと運転手から「すいません、私二日目なんです。ナビに入れるんで住所解りますか」ときた。

新潟から出てきて二日前に入社。今日は地理を覚えるため走ってこいと言われたので出てきた。あなたが初めての客だと言う。

「長距離トラックやってたんですが、四十になりましてね、ここが人生の転機じゃないかと思ったんです。体がきつくてこれから十年二十年続けられるか考えたら自信がなくて、それで決断してタクシーに変えたんです」

運輸業界はいずこも労働条件、労働環境がよくない。特に長距離トラックは十時間、十五時間ぶっ続けて走り、十分な休息をとれずにまた帰りの荷を積んで長時間走る、を繰り返す。体力のある若いうちは持つが、中年以上になると持たない。その点タクシーは六十七十になっても務まる。

この運転手の転職理由は納得できた。運送会社も働き方改革のターゲットになっているが、個人事業や零細中小が多く、行政の指導が追いつかない。この業界がタクシーのようにお上から「合格」の印をもらえるのはいつのことか。

 

 

残業を減らして副業に勤む?

 

「働き方改革って働かない改革もしくは働くな改革ですね」と荒田がニヤニヤ笑いながら言う。「そうだと思うが、それがどうした」と聞くと荒田、

「過労死ライン残業八〇時間と決めて労働時間を削り、プレミアムフライデー、第四金曜日は午後三時に業務を終了して社員を解放しろとママゴトみたいな余計なお節介までする。そうしたら今度は〝副業を奨励せよ〟だって。矛盾してませんか。浮いた時間でもうひとつ別の仕事したらどうか、ヨソで働けって言うんですから」。

会社は規則であるいは慣例として副業を禁止しているところが多い。「会社が十分な報酬を出すから一点集中で働いてくれ、会社以外の仕事と収入は認めない」ということ。

待遇不十分な中小企業ではなく優良大企業や公務員の話である。しかし今まで中小企業でも社員は副業は会社に隠してコソコソやっていた。それを今後は公然としてよいという〝改革〟である。

荒田は三〇歳で三人の子持ちになっていた。給料だけでは生活できない。週四日夜三時間他の雑誌社の編集の仕事をした。「あの頃はよく働いてくれたね」と今も妻が言う。

三十五歳の時新聞社から連載コラムを依頼され社長の許可を得て書き始めた。週一回、一回五千円のアルバイトである。五年間続いた。月二万円は荒田の小遣いになったが、その分給料は家計に回せたので妻は喜んだ。

四十一歳の時そのコラムが単行本になり二万五千部売れて二百五十万円の印税が入った。

社長は印税の額を聞いて「何だ、その程度か、ならいい」と言った。一千万円ももらっていたら半分会社へ戻せと言うつもりだったのだろう。

以後現在に至るまで荒田は会社勤めでありながら年末調整は行わず「二ヵ所以上から収入がある人」が行う〝確定申告〟をしている。

荒田は副業で家族を養ってきた。もちろんコソコソであり、社長の許しを得てである。社長が「ダメだ」と言ったら荒田はどうしたろう。

それが〝副業解禁、副業奨励〟に変わる。「早く帰って別の仕事をしていいよ」になる。

荒田は会社に後ろめたい気持ちを持ち続けたが、これからは堂々と「夜はここで働いています」「土日はここでアルバイト」と言えるし、インターネットで商売をして収入を得ている人も会社で公然と自慢できる。

お金と時間だけを見ればこれでもいいが、残業を減らして生産性を上げるという改革本来の目的と、会社に対する忠誠心といった観点に立てば、これも「日本的経営」を敵とする一つの方策であることが解る。

 

 

指導者の力量が問われる時代

 

民主主義は民意尊重、国民第一である。選挙で代議士を選んでいながら「憲法改正」は国民投票で決める。こうした社会では下ばかり見ている指導者しかできない。

戦国時代はトップの力量で勢力範囲が決まったが、今も指導者の力量(先見性、大局観、決断力など)が問われている。

見よ! ポピュリスト煽動型の小池都知事の変節と迷走、横綱日馬富士引退事件に見せた相撲協会、横綱審議委員会のトップたちの拙劣な問題解決の様子。検査の手抜きやデータ改ざんが発覚して謝罪する大企業トップの緊張感の欠如、政府の要請を入れて子育て支援のために企業が三千億円を負担することにした経団連トップの安易な妥協、そして会社に三%の賃上げを要請する安倍総理大臣の社会主義的判断。

いずれも社員、市民、国民が全幅の信頼を寄せることができる指導者とはいえない。

指導者次第で会社や国の行く末が決まる。日本本来の思想に基づく日本的経営を軽視し見捨てて、目先の損得に色めく指導者に将来を任せることはできない。

日本の経済を支えているのは会社である。役人が会社を指導監督すればするほど、タクシー業界のように会社の活力が削がれる。大風呂敷を広げたが言いたいのは、パワハラ禁止法にしろ副業奨励にしろ、働き方改革は国を滅ぼす危険を孕んでいるということだ。

 

 

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