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染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 357」   染谷和巳

 

会社は悪という思想

経営管理講座

 

会社やスポーツ界のトップの辞任が多い。パワハラやデータ改竄〈かいざん〉が原因だがこれは氷山の一角、九牛の一毛である。暴けばいくらでも出て来る。読者の拍手を得ようと新聞は正義の剣を振り回すが、不祥事は「人と組織」の宿命である。これはまた組織を蝕む〝大企業病〟と無関係ではない。

 

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おごりと怠慢が不祥事の原因

 

会社は悪いことをする。東芝の不正会計、日産の排ガス検査改竄、スルガ銀行の詐欺的融資。名門神戸製鋼所に端を発した製品(ばね用鋼材)の品質検査の報告書改竄が発覚したのは昨年十月。同様の不正は三菱マテリアルグループ三社にもあり最近電線大手のフジクラが検査数値の改竄を発表。

この不正に共通する動機は「受注の獲得と納期達成のため」であり「この程度の数値のごまかしは製品の質や安全性に問題はないのでお客様からクレームを受ける気遣いはない」という製品の質と技術に対する〝おごり〟にあった。

この〝おごり〟が曲者。

クロネコのヤマトホールディングスの社長が八月三十一日記者会見で「意図的な水増し請求」を認めて謝罪した。

水増し請求の相手は個人ではなく会社や公組織。たとえば社員の引っ越しを請け負っているケースでは作業員五人の見積りを出し、実際は三人で仕事を完了しても、初めの五人の見積り金額を請求して受け取る。たとえば一万個の商品配送の見積り書を提示し、実際は八千個で済んだ場合でも一万個分の配送料を頂戴する。

この過大請求は八年以上前から支店などで始められ、ここ一年間では約四万八千件で総額約十七億円を詐取したという。過大請求が全社的に常態化していたようである。

動機は「採算性の向上と繁忙期の受注回避のため」ということだが、イミがよく解らない。要は〝おごり〟と怠慢であろう。

住宅建築では施主が同意した見積り金額より高い金額を完成時に支払うケースが多い。施主の追加注文や材料の変更などにより、施主了承のもとに金額が上乗せになる。「家を建てる時は見積り金額より一割は高くなるのを覚悟しておけ」と言われている。

クロネコは会社と契約し、仕事の見積りは損することのない多めの数値で出す。一般的には完了後に仕事量が見積りより多くても少なくても明細書を付けた請求書を提示して客の了解を得る。クロネコは実際の仕事量と実際の金額を無視して、見積り書をコピーして請求書にした。

なぜこんな不正が長年見過ごされてきたか。一つは客である会社のチェックが甘いこと。大企業は(クロネコの契約客は大企業や官公庁が多い)社員の引っ越し代や製品の配送数量のような〝こまかいこと〟は精査しない。請求書が直接経理部に来て、責任者が見ないまま支払いが終わるというケースもある。

もう一つはクロネコに対する信用が高いこと。クロネコの創始者小倉昌男は名経営者として尊敬されている。クロネコの宅急便は敵なしの全国制覇チャンピオンである。社員は末端の配達員までよく教育されており質がいい。

クロネコと契約する会社などは「クロネコが水増し請求のようなセコいマネはするわけがない」と信用し切っている。

新聞はこの事件を「クロネコブランドのイメージ悪化」「倫理感が弱くなっている。信頼の回復はできるのか」と書き立てるが、この事件は不動の巨峰が被った一つの疵〈きず〉であり、クロネコを傾かせるような致命傷ではない。

ともあれクロネコまで悪いことをしていた。三十年前のリクルート事件以来会社は贈賄罪だけでなく偽造や改竄、パワハラを重ねて「会社は悪」という意識を人々に定着させていった。

マスコミは会社を叩けば人が喜ぶことを知った。「けしからん」「よく言ってくれた」という支持応援の声に押されて、さらに会社の悪を暴き出すことにエネルギーを費すようになった。

 

 

会社を憎悪する女性新聞記者

 

地方の大手建設会社の社長の話。

現場で大型クレーンが倒れた。台風の強風のせいで、用心はしていたが倒れてしまった。クレーンの先が隣家の塀をかすって傷つけたが、ケガ人はなく他の被害もなかった。社長は報告を聞いて胸をなでおろした。

翌朝、地方紙Mの一面に倒れたクレーンの写真が大きく載った。題は「台風の傷跡」。社名と社長名が記されていた。台風の傷跡なら社名などいらないのではと社長は思った。

その日の午後、M紙の女性記者Mさんが取材に来た。総務部に来たが社長が会った。「予測できたのでは」「危険なのだから人を張りつかせるべきだったのでは」「現場の管理監督がゆるんでいるのではないか」。

まるで刑事が犯罪者を訊問する態度である。M記者の目には険があった。「大変な事件を起こした」と非難する表情があった。

社長は事実を丁寧に話した。感情的にならないよう努めた。

翌朝また一面に大きく「ずさんな管理、安全軽視、Y社のクレーン倒壊事故」の記事が載った。塀を壊された家人の「もう少しで死ぬところだと思うとゾッとする」という声。最後に「これからは一層〝安全〟に力を入れます」という社長談があったが、社長が話したことは否められ、ほぼ反対のことが書かれていた。

その翌日から三日間上中下の三回「建設現場の事故と安全」の特集が組まれた。Y社のクレーン事故が下敷きになっており、随所で比較例として引用されていた。

Y社は上場企業で県でも名の通った会社である。社員の質は高く、全社で整理整頓清潔清掃に取り組み、事務所や庭だけでなく町の道路や公園まで社員がきれいにしている。町の評判はよく、近くにY社があることを誇りにしている。

にもかかわらずM紙はいつもY社を悪く報道した。他の会社も悪く書かれたが、Y社が特に目立った。恨みでもあるかのように小さい疵を大きく報じた。

会社で講演に招いた硬派のジャーナリストS女史にこのことを話すとS女史は社長にこう言った。

「政府、警察、企業を権力の三城と見做す新聞が多い。この城を攻撃すれば読者が喜ぶと思っている。事実を否めても企業を悪く言い、いい所は知らん顔したり小さく報道したりします。A紙M紙、地方紙大手のT紙、A紙と比べるとM紙は小新聞社ですがなかなか骨のある左翼紙です」。

ある時、社長は隣町の介護老人ホームのオープニングセレモニーに招待された。

隣町は貧しく自力で施設が作れなかった。知り合いの町長がY社社長に助けを求めた。

土地は町が都合したが、建物からベッドなど設備の一部までY社が無償で提供した。

町長がお礼の言葉を述べ、Y社長に感謝状を手渡した。

パーティになって多くの人がY社長に慰労とお祝いの挨拶に来た。

ふっと見るとマスコミ関係者の中にM紙のM記者がいた。

MさんはY社長を一瞥〈いちべつ〉して目を逸らした。何度か会っているのにお祝いにも取材にも来なかった。

Y社が世の中のためになる「いいこと」をするなんて、Mさんは信じられないし許せなかったのだろう。

「うちだけでなく会社は、〝会社は悪〟という固定観念を武器に攻撃してくる新聞やテレビと余計な戦いをしていかなくてはならないんだ」とY社長は苦笑した。

 

 

反会社人間が大企業病を誘因

 

欠点を探し欠点を指摘すればどんな英雄偉人にも欠点はある。だからといってその偉業の価値が下がることはない。

人がすることだから会社には数多くの欠点がある。それを暴いて明るみに出せば会社の信用評判は落ちる。時には潰れる。

会社は社員が生活の糧を得る場であり、また人としての成長を遂げる場である。その場が衰亡するのは社員の人生の不幸につながる。

それでも〝会社は悪〟という見方が根強くはびこっている。それをマスコミが煽り立てるので勢いはますます強くなる。「けしからん、許せん、処罰せよ」と叫ぶのは隣の会社の同じ身分の社員である。M紙など新聞社も会社である。M紙などは自分の足を喰うタコになりかねない。

反会社の発言をし行動することが法律上も許されているのは労働組合である。かつて組合が強くなって潰れた会社がたくさんあった。

今は自分が所属する会社を潰したら元も子もなくなると、組合員も賢くなり露骨な反会社活動をする組合は少なくなった。

問題は〝会社は悪〟という意識を持ち、反会社のあからさまな言動はしないが、忠誠心や仕事意欲を欠いた普通の社員である。

会社に少し生あたたかい風が吹くと、こうした社員の体内の大企業病菌が増殖を始め、周りに伝染し組織を真正の大企業病に陥らせてしまうのだ。

 

 

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