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染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 369」   染谷和巳

 

上司支持が人事の基本

経営管理講座

 

誰が社長か、誰が上司か。もしかして会社を経営しているのは部門を運営しているのは入社数年の未熟社員ではないか。会社の常識すら身につけていない部下ではないか。この問いに「そんなばかな」と笑える社長はまともな人。現実には笑えない社長の会社が増えている。その一例─。

 

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うるさい課長を外した結果は

 

多くの会社を見ている会計事務所の所長が言う。

「三十過ぎの人は命令報告や権限、叱るほめるの意識や上司と部下の関係など組織のルールが理解できる。こうした話をするとうなずいてくれる。それが三十前の社員だと全く話が通じない。『それがどうした』と聞く耳持たない。これから会社は大変だと思う」。

かつて若者を新人類、宇宙人と言ったが所長は「異星人」と表現し、自分が見ている会社で最近あった出来事を話した。

醸造食品の老舗が健康飲料で大ブレイクして一躍人気企業になった。地方都市ではあるが大卒の新人が毎年入ってくる。いつしか若い社員が中心の会社になった。

ある時入社五年前後の営業マン五人が揃って社長室を訪れた。直訴である。

「白井課長の下ではやっていけない。みな精神的にまいっている。全員辞めたい」という。上司の課長を替えてくれないならば、ということである。

十三代目の社長は営業マンの気持ちが理解できた。

白井課長は高卒の叩きあげで四十五歳。細かくてうるさい。報告書の出し忘れ、記入ミスをいちいち指摘する。出張旅費の計算の説明を求める。電話のかけ方、声の大きさ、挨拶の姿勢、言葉遣いの乱れを見逃さずに注意する。それもやさしくソフトに言うならいいが、ズケズケ決めつけ、時には大声で怒鳴りつける。そんな大事ではないと思うが課長は顔を赤くして怒鳴り、言い訳をすればさらに怒鳴り声は大きくなる。

朝から晩まで連日で仕事にならない。柳に風と聞き流しにかかると「その態度は何だ!」と迫ってくる。やっていられないという。

白井課長が社長にこぼしたことがある。

「注意されたら直すでしょう。厳しく叱られたら誰だって改めます。それが同じミス、同じ行動を平気でする。私の指導をハナからばかにしている。聞いていない。改める気がない。のれんに腕押し、ぬかに釘です」。

社長は課長が任務に忠実で一生懸命なのは解るが、若い部下を育てるには認めるほめるを中心にしたほうがいいのではないかと思っていた。家庭でも学校でも自由でのびのびやってきた者が、頭ごなしに「ああだこうだ」とやられれば息が詰まる。もう少しゆとりを持っておだやかに接したほうがいいのにと思った。

しかし社長は思っただけで課長にこの考えは言わなかった。これを言えば課長は目をつり上げて「甘ったれの部下にもっと甘くしろというんですか! 仕事しないで遊んでいていいよというのと同じじゃないですか」と噛みついてくるのが見えているからである。

営業部員は販売店回りのルートセールスで、個人目標もないスマートな仕事である。営業部は白井課長が統括し部員は十人前後。毎年新卒を二、三人配属する。毎年二、三人半年一年で辞めていく。課長がイヤで辞めていく。

社長は前から問題だと思っていた。五人の営業マンに「考えておく」と言って引き下がらせた。

社長は先代から仕えている専務に相談した。専務は「課長は厳しいですからね。営業はいいのが随分辞めています。この五人は仕事ができるほうです。ごっそり抜けたら穴が開いてしまいます。ここは思い切って課長を配置換えしてはどうでしょう」と助言した。

東京営業所を新設したばかりだった。営業マン一人と事務員一人。これから東京の新規客の開拓に力を入れる予定だった。白井課長を部長待遇で東京営業所長に任命した。課長は単身赴任で東京へ行った。

当面本社営業部は専務が見ることになった。

数ヵ月すると営業部の雰囲気がだらけてきた。営業マンの出社時間が遅くなった。出先からのメール報告が少なくなった。部内は仲間言葉とタメ口が横行し中学校の教室のように騒がしかった。

営業マンは何も言われないので三度行くところを二度で済ます。やがて納期遅れや納品数量の間違いが増え、営業マンは客から怒鳴られた。責任者の専務が電話口で謝る。「お前んとこの社員は謝り方も知らない。ちゃんと教育しろ」と叱られた。

ここ三年倍倍に伸びてきた新製品の売上げの伸びが止まった。それに対して専務も営業マンも危機感を覚えることなく、何事もないかのように何も改めずに仕事を続けている。

 

 

 

異星人は会社を食い物にする

 

この話を聞いて荒田は「せっかくヒット商品が出て会社が飛躍する時だったのに、人がその機会を潰してしまった」と思った。

十三代目社長の判断と決定が間違っている。五人の営業マンは優秀とはいえまだ社歴五年そこそこの未熟社員である。商品がいいから売り上げが上がっているが、営業マンの営業力によるところは小さい。その五人が「うるさい課長がいやだ」と直訴した。

白井課長がうるさく言っている一つひとつのことは社員ならできて当たり前の常識である。できなければ直されるのは当然。それを素直に聞いて改めれば課長の苦言の質量は減っていく。減らないのは営業マンが会社、仕事、上司をなめてかかっているからである。

それでも注意し叱り続ける課長の努力は涙ぐましい。こんなデキソコナイでも何とか一人前に育てようとする親心である。五人は「うるさいからいや」ではなくうるさく言ってくれることに感謝して己の言行を反省し改めるのが〝人の道〟というものではないか。

社内の指導育成の場でできないことが、お客様の前でできるわけがない。恥ずかしい態度行動言葉遣いを平気でしている。お客様はいちいち注意叱責しないが、内心ダメな営業だ、信用できない奴だと思っている。商品が売れているから仕入れるが、営業マンを信頼できる人とは見ていない。営業マンはそれが解っていない。

白井課長がうるさく言わなければもっと悪くなる。課長が何も言わなければ代わりに社長と専務が営業マンの指導をするのか。若い社員に嫌われたくないという、ただそれだけのために黙ってニヤニヤ笑っている二人…。

会計事務所の所長が言う。

「課長がいなくなってから、若いのが本当に社内で自由でのびのび、こわいものなしに振舞っている。上司の専務がそばにいても遠慮することなく遊びの話をしている。専務は部下の話に相槌を打って笑っている。阿〈おもね〉っているとしか思えない。私は会社が異星人に占領されたと感じました」。

座っていれば目の前に食物が運ばれてくる生活に慣れた人が、自分で稼ぐ立場になったなら、意識と行動の大変革が求められる。

仕事をして人から認められ、応分の報酬を得る〝努力〟をしなければならない。会社に勤めるとはこの努力を強いられるということである。ここが解っていないのが五人の営業マンである。

家で親に食わせてもらいながら親に挨拶もお辞儀をしたこともない。親に注意されると返事もしないで「うるせえな」という顔で自室に逃げ込む。これが会社でも通用すると思っている。

毎年、希望する会社に就職できた新卒者の三〇%が三年以内に辞めているという。意識と行動の変革ができなかった人である。努力を拒否した人である。この三〇%はまた就職しまた辞めてついに二階の自室に引きこもる人になる。

直訴してきた五人の営業マンに対して、十三代目の社長は「白井課長は君たちを一生懸命育てようとしている。こうした上司に恵まれたことに感謝するのが先。ここを辞めてどこに勤めても君たちは勤まらない。今の話を撤回するか、しないならどうぞ即刻辞めて結構」と言わなければいけなかった。新米社員の言い分を聞いて上司をヨソに飛ばすことは、どんな新米社長もしない。

 

 

 

社長と幹部の信頼の絆を重視

 

「仁に過ぎれば弱くなる」と伊達政宗の言葉を紹介したが、この社長の判断決定は仁(思いやりとやさしさ)に由来するものではない。組織運営の根幹、人事の基本に反する行いなのである。

もし白井課長が会社や社長を批判し、会社にマイナスの言行をするなら左遷していい。育成という任務を忠実に果たしている課長を部下が「ついていけない」と訴えたから左遷したのでは、社長を信用する人がいなくなる。取引先が知れば、社長を軽蔑する。

幹部は社長に弓を引いてはならない。社長は社員より幹部に全幅の信頼を寄せている。

もし社員が「専務はこんな悪いことをしている」と密告してきても、社長は軽軽に専務を捨ててはならない。密告者に不信を抱きあくまで専務を庇い助けるのだ。

 

 

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