アイウィル 社員教育 研修日程

 

染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 371」   染谷和巳

 

会社を蝕む平等主義

経営管理講座

 

会社は存続のため子孫のため人を育てる。これが日本的経営であり、これが日本の強みである。社員の能力を伸ばし人間性を培う。誰が? 上に立つ人が。上司が注意し叱り、認めてほめて部下を育てる。そこには格差がある。平等はない。しっかりした上下関係がなければ教育は成立しない。

 

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傾きつつある老舗の食品会社

 

有名な教育評論家はこう言っている。

「今もなお『言うことを聞かない社員は辞めさせればいい』と公言する社長がいます。こうした社員軽視の発言は社員の意欲を削ぎ、会社の衰退につながります」。

会社の方針に従わない人、上司に反抗する人が個性のある人で、こうした人の個性発揮を抑圧してはいけないということだろう。

こう続ける。

「一方的な押しつけはいけません。管理社会は人の自由を奪います。個性豊かな人は育ちません。社員のいいところを伸ばしていく姿勢が大切です。教育、エデュケーションとは引き出すことです」。

この評論家を顧問として迎え、社員の教育を任せている地方の老舗食品会社。

社長は学校を出て三年間大阪の食品問屋で修行して入社、三十五歳で後を継いだ。

よく友人に問屋での修行時代を話す。耐え切ったことを誇るのが半分、残りは時代遅れの〝しごき〟の批判。

機械があるはずなのに重い商品を持ち運ばせる。泣き事を言うと上司は「俺はその二倍いっぺんに運んだ」と労わりの言葉もない。今、四十前で腰痛に苦しんでいるのはあの時の荷物運びのせいだと社長はこぼす。

一日の労働時間が長い。休みは日曜祭日のみで年間七十日もない。地獄の日々だった。

上司は顔も体も鬼のようで無理偏にゲンコツを地で行く男。逆らえば本当にゲンコツが飛んでくる。疲れて潮垂れていると罵倒される。昔の軍隊がこうだったんだろうと思う。

同じ修行社員の中には数ヵ月で辞める者が少なくない。その中で契約の三年間を自分はやり遂げた。何事にも挑戦して食らいついたら離さない〝根性〟が身についた。その点あの会社、あの上司には感謝していると社長は胸を張って言う。

この経験から社長は社員にやさしい人になった。上から目線の高圧的態度をとったことがない。社員に対する言葉遣いは丁寧で、つねに自分と社員は対等、平等であることを口で言い行動で示した。評論家を顧問に迎えたのは、単に社員研修の講師としてだけではなく、自分のやさしい心を理論武装する意味もあった。

いくら募集をかけても人が集まらない昨今である。単純労働に外国人を何人か入れている。「今いる社員を大事にする」という社長の姿勢は百人近い全社員から歓迎された。

部下に報告書の誤字脱字を注意するなど、こまかいことをいちいち言う課長がいた。社長は「みんな一人前の大人なんだから自分で気づいて自分で直します。部下の心を傷つけないようにもっと人格を尊重してください」と諭した。

終業時間が過ぎても仕事をしている社員がいると社長は直属上司を飛び越して「早く帰りなさい、後は明日すればいいから」と促した。

伝統ある商品の質は維持されているが、周辺のこまかいこと、伝票の不備、在庫量の不正確、商品の紛失、配送の遅れが目立った。

整理整頓が行き届かず、社員は物を探すのに時間を費やしている。「伝えました」「聞いていません」といった連絡や伝達の齟齬が頻繁に見られた。こうしたこまかい問題を上司は注意せず見て見ぬ振りをしている。

以前は始業一時間前出社の社員が多かったが今は全員始業ギリギリ出社。遅刻も増えている。仕事のとっかかりが遅くなり、終業時間三十分を過ぎると会社には誰もいなくなった。

社員の仕事に向かう姿勢がだらけ、意欲は減少した。「何ものにも束縛されず、自由で平等でいい雰囲気です」と社員は荒田に明るく言った。

当然じわじわ業績が悪くなり、数字は病気寸前の状況を示していたが、社長は「業績がよくないので十分上げられないが」と頭を下げて、社員の賞与給料を世間並みに支給した。

地元の誇りの優良企業、明治時代の初めに創業して百五十年続いている老舗に暗雲が立ち込めている。取引業者はもとより町の人もそれを感じ、将来を憂いている│。

 

 

h5>世界の犯罪国家スウェーデン

 

貧富の差、男女の差、弱者強者の差をなくして平等の社会を作り上げればみなが幸福になるという伝統的思想がまた鎌首をもたげている。

旧ソ連は革命によって貴族、地主、資本家を葬って、社会主義の国を作った。土地や私有財産の所持を廃止し、労働者の収入を均一化した。この理想的社会は子が親を警察に密告する社会、スターリンという冷血独裁者が支配する国になり、国民は貧困にあえいだ。アメリカとの〝冷戦〟がなければもっと短命に終わっていたろう。

北欧の人口一千万人の国スウェーデンは、格差のない平等社会を目指し、保育所、学校、病院、老人ホームを一切無料にした。消費税は二十五%と世界最高値だが理想的社会にするため納税者は是認した。

女性の地位が上がり離婚が増え孤児が増え、家族がなくなった。片親育ちの子や孤児が大人になり社会の中核を構成するようになった。この大人は殺伐たる心の持ち主である。祖先に対する敬意や子孫を思う心がない。正常な人間関係が作れない。この大人がまた子を作り孤児院に捨てる…。

五十年前、理想的福祉国として世界中から注目され尊敬されたスウェーデンは、現在、日本を含めた先進国の中でずば抜けた犯罪国家として注目を集めている。

強盗はアメリカの四倍、強姦は日本の二十倍、刑事犯罪の総数は日本の十七倍。国の人口比であるが世界一は間違いない。

日本はスウェーデンを見習って「女子力の活用」などと言っている。スウェーデンは女性議員が四十%でそれと比べて日本は少な過ぎる。女性議員を増やさなければとまじめな顔で言っている。格差のない平等社会の末路はこんなものと知った今も。

民主主義の旗印の「平等」は地球上の人間も含めた生物の生き方にはそぐわない。〝絵に描いた餅〟だと思うのが無難である。

勤勉、倹約、我慢などの美徳を捨て、未熟な社員に楽をさせれば会社も人間も堕落する。こんな道理が社長は解らないのか。

民主主義の社会では自分の財布の中身にしか関心のない人と社会や国家のために尽くす人、言い替えれば目先の損得で動く利己主義の人と広い視野で考え行動する人が同じ一票を持っている。

寝たきりの病人、介護なしでは生きられない老人ホーム入居者、若いのに働かないニートなども同じ一票を持っている。

民主主義の最大の欠点は誰もが同じ一票(力)を持つことと多数決制度である。問題の意味を理解できない人や問題に全く関心のない人も一票を投じることができる。

衆愚〈しゅうぐ〉による民主主義社会の堕落は古代ギリシャの時代から指摘されていた。この黒い雲が今また世界の空を覆いつつある。

まだ日本は〝家族の崩壊〟にまで至っていないが、組織運営のため上下関係があり優秀な人と劣る人を差別する会社が溶け始めている。

人間形成を託すことができる最後の砦が崩落しつつある。

 

 

社長は社員の下僕となり果て

 

小学校の先生は「一時五分前に席に着いて授業の準備をしてください」とは言わない。「みなさん、昼休み、五分前に席に着いて授業の準備をしてほしいんですがどうですか」と聞く。生徒は「ええっ」「一時まで休み時間でしょ」「どうして五分前?」とてんでに勝手なことを言う。先生は「賛成の人?」誰も手を挙げない。「反対の人?」みな手を挙げる。「ではこの案はもう少し考えましょう」と引っ込める。

先生と生徒は平等。多数決だから生徒が勝つ。学校の方針や運営の仕方まで未熟な子供が決めている。先生は尊敬されず、恐がられず、なめられっぱなし。

これと同じことをかの食品会社の社長は行っている。

間違えても遅くても怠けても何も言われないので社員は明るくのびのびしている。のびのびがしだいにのんびりになり顔も手足も弛緩して、戦う人ではなく休む人、仕事をしない人になる。

社長は社員の不満を聞き、要望を聞き、提案を採用する。社員の意見を参考にして社長が決めるのではなく、社員の意見をそっくり受け入れて社長が従う。

社長は強制的一方的に社員に命令しないので、「言うことを聞かない社員」はいない。だから辞めさせる社員はいない。顧問の教育評論家の主張に合致している。顧問は自説どおりに行う社長を見て相好をくずしている。

この会社がソ連やスウェーデンの道をたどるのは確実である。

 

 

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