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染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 367」   染谷和巳

 

許せない幹部の行動

経営管理講座

 

組織には上下関係がある。社長が「自分は偉い」と勘違いして社員に対しわがまま勝手、傍若無人な振舞いをするケースが多かった。今は平等と弱者優遇が社会に浸透し、社長が社員に気を遣っている。そのせいで逆に社長を恐れず、社長の意に反した勝手な言動をする幹部がふえている。

 

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「報告なし」で寿命を縮めた社長

 

平成の三十年間はコミュニケーション革命の時代であった。

携帯電話が普及しスマートフォンに進化し、メールによる伝達が当たり前になり、ラインやツイッターといった複数の人に同時に意見を伝え、複数の人から返事を受け取ることができるようになった。

この革命はさらに加速する。減速や衰退は考えられない。小学校ではパソコン教育と並行して児童にスマートフォンを持たせることが実現しつつある。

「もし今ならば、K社長はもっと健全な明るい経営ができたろうな」と荒田は思った。

今はケータイ報告だが、二十年前までは報告は対面か黒電話か手紙に限られた。

荒田は長い間、K社長の自宅に通勤した。教材の原稿書きや商品のパンフレット作りを社長と二人で行った。幹部社員は他にもいるが社長は荒田を頼りにし、つねに側に置いた。

教材が完成し、それを本社ではなく新設の子会社が販売することになった。荒田がその新会社の責任者に任命された。本社から経理の女性一名と営業一名が派遣され、三名でスタート。人の採用から始めた。

滑り出し順調。商品の力もあり、一年で十五人、二年でパート社員を含めて三十人の規模になり、本社と並ぶ売上げを上げた。

社長の自宅で仕事をしたと言ったが、社長は対人恐怖症で神経を病んでおり、荒田の事務所や本社に顔を出すことは絶えてなかった。五年前に発症して以来、近所の散歩はするが会社へは通勤しなかった。一日の大半を電話をかけ電話報告を受けることに費やした。

荒田の抜擢が成功したことに社長は満足した。それを感じて荒田は緩んだ。夕方の毎日の業務報告はするが、それ以外の報告を怠るようになった。

夏、土日一泊二日で潮干狩りをした。希望者のみ参加だが十数名が参加。交通費は自分持ちだが民宿の宿泊食費は会社の経費で落とした。社長には土日の潮干狩りも会社のお金を使うことも言わなかった。社長は参加するはずがないし、休日を使った慰安旅行だから許可を得るまでもないと思った。

しばらくしてこの件が社長の耳に入り(社員の誰かが密告した)、社長から荒田の自宅に電話。荒田は六ヵ月間一〇%減俸の処罰を申し渡された。罰は厳しすぎると思ったが、社長に隠して勝手なことをした後ろめたい気持ちがあったので謝り、始末書も提出した。

腹心の背反に社長は悲しかったであろう。それ以降社長の猜疑心が一層強くなった。

と荒田は思ったが、社長の猜疑心はずっと前から強かった。本社の部課長は社長の細かい追求に泣かされていた。電話報告をすると粗探しのような質問をされる。答えられないと「えっ、どうなんだ!」と迫られる。受話器を握りしめて脂汗をかく…。

一人の課長は「報告がなっていない。一日五〇回報告しろ」と命じられた。

荒田はこの話を聞いて思わず「本当か」と聞いた。一日五〇回なら一時間に六回、十分に一回。十分に一回何を電話報告するのか。課長は気が狂うのではないか、五〇回電話を受ける社長も大変だ、この命令は教育のために見えるが課長を潰すのが目的ではないか、社長はおかしい…。

ある部長は「英会話教室」開設のためロサンゼルスに視察出張した。荒田は「一週間くらいの出張で何がわかる。むだなことだ。部長はよくやっているのでご褒美のボーナス旅行というところか」と思った。

成田空港に戻った部長が社長に電話を入れると、「お前、何しに行ったんだ!」といきなり怒鳴りつけられた。一言答えると弾が百発飛んできた。一方的なハイテンションの剣幕が三十分間続いた。

当時国際電話料金は高く、アメリカは三分まで三千二百四十円、十分で一万円を超えた。それにコネもツテもない出張である。観光旅行と変わりない。報告する中身がなかった。戻ってからまとめて報告すればいいと思っていた。社長の癇癪玉〈かんしゃくだま〉が破裂した。

部長はこの電話で精神が壊れしばらくして退職した。

信頼されていた荒田には無風だったが、社長の猜疑心は他の幹部には烈風だった。

無断社員旅行以降、荒田にも風当りが強くなった。神経が太い(鈍感な)荒田はめげなかったが、同僚や先輩幹部はことごとく社長に責め殺されて去っていった。

それは会社にとって不幸であり、当然社長にもいいことはなかった。鈍感な荒田も三十年前についに見切りをつけた。

「報告や指示がどこに居てもすぐに自在にできる今だったら、社長はあんなに社員を疑いギリギリと怒り狂うことはなかった。会社と自身の寿命を短くしなくてすんだろう」と荒田は思った。

 

 

幹部の〝反会社〟〝反社長〟の言動

 

電話での社長の訊問や責めに荒田など幹部は辟易〈へきえき〉したが、離れて鳥瞰〈ちょうかん〉すれば社長の癇癪よりも幹部の言動により大きい問題がある。

社長と幹部の意識(価値観)のズレはどこの会社にもある。そのため社長は幹部の意識向上のための教育に力を入れる。会議などで自分の考えを話し、理解と同調を求める。外部研修に派遣して変化成長を期待する。

しかし社長と離れた所にいる営業所長や工場長などには社長の意思が届きにくい。荒田のように社長のそばにいた者も一旦離れると時間とともに自分のやり方考え方を出してくる。

幹部がしてはならいのはつぎの三点。

①幹部が独走する

事前に承認を得ずに自分の考えで行う。部門を任せているが、社長と違うやり方、反対のやり方で仕事を進めていいわけがない。

荒田は決算書の数字を操作して二百万円の黒字を五十万円の赤字に変えたことがある。税金を払いたくなかったからである。それを知った社長は「なぜそんなことをする。利益を出して税金を払うのが一人前の会社だ、汚いことをするな!」と怒った。

②幹部が失敗を隠す

「失敗しました」と正直に報告すれば社長は許し、一緒に対策を考える。責任を追及されるのが恐くて報告しない。また失敗でない形に捏造〈ねつぞう〉する。糊塗〈こと〉する。こうしてその場逃れをし、逃げ切れるケースは少ない。いずれ発覚する。その幹部に対する社長の不信感は永久に消えない。

③幹部が社長の悪口を言う。

部下やお客様にグチをこぼし社長の言動を批判する。これを聞かされた部下やお客様はその幹部に同情することはあっても尊敬することはない。弱い人だと軽蔑する。もしそれが社長の耳に入り、事実だと解ればその幹部は左遷降格リストに載る。

この三つ以外にも、経営の基本方針に従わない幹部、新しいことに反対し、それが失敗に終わることを願い、難しい仕事や危機から逃げる幹部、部下の味方になり労働組合の代表のような発言をする幹部は許せない。

 

 

人間性(知識・教養・人格)が問題

 

個人がいつでもその場で受信発信できる携帯電話の普及で報告の問題は解決した。と言いたいところだがまだ未解決な点がある。

たとえば荒田が勤めていた会社の社長は今なら報告がないこと、報告が遅いことにイライラすることがなくなるから精神が安定して明るくなるだろうと言ったが、報告する側が社長への報告を嫌がり三回を一回にし、報告量を半分にすれば事態は変わらない。

社長はやはり苛立って「どうなっている」と電話をかけてくる。幹部が仕事中で電話に出られないと苛立ちはさらに募る。幹部は訪問先を辞して外に出るとすぐ社長に電話を入れる。社長はつい語気が荒くなる。単なる指示が怒鳴りつける声になる。幹部は社長がますます嫌になる。

報告はお互いの信頼関係、親愛関係があればスイスイ往来する。それがなければ音声であれメールであれ、やはり報告は遅れ、歪められ、悪いところを隠して飾られたものになる。

適切な報告は仕事を円滑に進めるための手段である。手段であるからこれがいくら完璧でも仕事の成果が上がるとは限らない。

仕事をするのは人間。最後は社長と幹部の人間としての器量で決まる。携帯電話やスマホがコミュニケーションの革命を起こしたと初めに述べたが、この道具を使う人間のデキが悪ければ革命にはならない。「人間性の向上」という土台なくして問題解決はない。

現代は会社も人も「正義の法律」で息苦しいまでに締めつけられている。今こそ人を動かす立場の人は特に、下から支持され信頼される〝豊かな人間性〟が求められる。

 

 

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