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染谷和巳の『経営管理講座』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「経営管理講座 365」   染谷和巳

 

ポリティカル・コレクトネス

経営管理講座

 

カタカナ語は肌に合わないが、このポリコレとポピュリズムは今世界中に吹き荒れている暴風なので避けて通ることはできない。差別偏見をなくす運動として始まったポリコレは現在弱者の保護救済に縦横無尽の活躍をしている。政府はこの風に逆らうどころか先頭に立って煽動している。

 

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誰も国が滅びるとは思わない

 

事故災害に見舞われる、収入がなくなり食えなくなる、会社が潰れて失業する、こうした不幸には誰もが「それは困る、どうすればいい」と切実に反応する。

これに比べ「国が滅びる」という警告には反応が鈍い。よそ事にしか思えないからである。

七十四年前、戦争に負けてアメリカに占領されて日本は主権を失った。しかしドイツのように国を二つに割られることはなかったし、一つの民族が韓国と北朝鮮と二つに割られるような不幸に遭わずに済んだ。占領は七年足らずで終わり、日本はまがりなりにも主権を有する単一民族の独立国として再生の道を歩み出すことができた。

〝国が滅びる〟に身震いして構える人が少ないのはその悲惨な経験をしたことがないためである。

アフリカや中東の民族紛争、宗教戦争で町を破壊され家を失い命からがら逃げ出した〝難民〟の生活は悲惨である。また、難民キャンプを脱けてドイツなどヨーロッパへ渡ろうとした人も多くは命を落とし、運よくたどり着いた人もあたたかく迎えられることはなかった。

まだ始まったばかりだが大半の国で移民反対勢力が強くなっている。今は「極右政党」と呼ばれているが、数年後には政権をとるまでに支持を得て「極右」という位置付けがなくなり〝与党〟になる。流入した難民が排除され迫害されるのは目に見えている。

国が滅び国を失うとは絶望的な不幸である。難民キャンプの男が「逃げないで、死んでもいいから、刃物のかけらひとつしかなくても戦えばよかった」と暗い目でつぶやくのを聞いたと日本人の商人が伝えている。

先号で「ポリコレで日本が滅びる」という説を紹介した。ポリコレを「弱者救済の法整備」と狭い範囲に限定しても、それが国を滅ぼすことにはどうしても結びつかない。「そうですか」とあいまいな笑いを浮かべるしかない。

しかし目をこらし耳を澄ますと崩壊の兆しの石ころが転がり落ちるのを感じる。

それは一人の社員の過労自殺をきっかけに急速に勢いを増した。この四月から施行された「働き方改革関連法」は残業時間を年間七二〇時間に制限、それを超えて残業させた会社は六ヵ月以下の懲役刑または三〇万円以下の罰金を科せられる。

少子化で今後ますます生産年齢人口(一五歳?六四歳)は減っていく。働く人が減るのと並行して働く時間を減らす。

どうなるか。働かない人を抱えた日本の会社は力を失い世界の競争に負ける。会社が衰えれば国が貧しくなり、人の心も荒んでいく。滅びの笛の音が聞こえてくる。

政府は国民のためによかれと判断して法律を作っているが、その根拠は先見性と大局観に基づく「国の将来像」にあるのではなく「かわいそうだ」という庶民感情に基づいている。目先の損得で動く国民が喜ぶことをことをすればまた選挙で勝てるからである。

 

 

就職実現具体策は成功するか

 

内閣府は四〇?六四歳のひきこもりが全国で六一万三千人いるとの推計値を発表。前回調査で一五?三九歳のひきこもりが五四万一千人いると発表しており、合算すると全体で現在百万人以上が自宅にひきこもっていることになる。

このうち平成五年から十六年頃に社会人になった世代を「就職氷河期世代」と名付け、国が集中的に支援する模様である。

この世代はバブル崩壊後の景気悪化でいい就職先がなく、就職してもうまくいかず退職してひきこもりになった人が多い。

安倍首相は「本格的な支援策の早急な検討」を指示し、厚労省は「就職実現総合プラン(仮称)」を提案。具体策として、専門ハローワークの設置、職業訓練や学び直しの充実、この世代のひきこもりを積極採用する会社への助成金支給要件緩和などをあげている。

ひきこもりになったきっかけは「退職」「人間関係」「病気」「職場になじめなかった」などがあげられているが、これをまとめると「社員として会社に勤めることができなかった」になる。

就職氷河期でも就職先はいくらでもあった。給与などの条件が十分でない中小企業はこの時期も人不足だったし、きれいで楽な仕事でなければ就職は可能だった。

家庭で大事に育てられ学校のゆとり教育で甘やかされ、社会はバブル経済で絶好調。日本中が浮かれていた。こうした環境と時代に育った人は「上下関係がある厳しい組織」になじめなかった。自分はもっと大事にされるべき存在なのに、一方的に仕事を命じられ、細かいことを注意され叱られた。上司先輩との〝人間関係〟に悩み、〝病気〟になり三ヵ月、半年で退職して「もう会社はこりごり」と自宅の自室にひきこもった。

ひきこもりの七〇%は寄食者つまり両親などに食わせてもらっている厄介者である。

このひきこもり対策も弱者救済のポリコレである。このままにしておくと生活保護受給者が爆発的に増えて財政負担が大変だから、その対策として「働いてもらう支援をする」のだと理由付けをしているが、現在でも生活保護を受けている不適格者は多数いる。生活保護の受給資格を厳格にすればいいことで、問題のピントを無理に合わせようとしているとしか思えない。

厚労省の「就職実現具体策」は画餅に帰すだろう。

五年十年一度も就職しようとしなかった人がハローワークの専門窓口に自ら足を運ぶとは考えられない。仕事の技術を身につける学校に自らの意思で通う人が何人いるか。会社は仕事ができる人なら助成金などなくても喜んで採用するが、長年自宅にひきこもり家族ともろくに口をきかない人の中に職業人として務まる人が何人いるか。

この具体策は本人の意思を尊重するポリコレだが、働く気のない人の意思を尊重すれば「就職実現」は達成できない。

厚労省の役人が個別訪問して説得して就職する気にさせるなら成果は上がるだろうが、こんな難しい説得ができる役人はいない。

百万人のひきこもりを就職させるには、強制的に半年一年矯正スクールに入れて鍛え直すしか方法はない。もちろんポリコレの時代、こんなことはできない。

よってひきこもりの社会復帰は達成率ほとんど0%に近く終焉する。それまでに浪費される国家予算はどれほどになるのか予測もつかない。

 

 

つぎは昔の徴兵制の賠償訴訟

 

一年ほど前にこの欄でとりあげた旧優生保護法下で本人の意思に反して強制的に不妊手術を施された人々の集団訴訟が実を結び、強制不妊救護法が成立、被害者に一時金一人三二〇万円が支給されることになった。

この法律成立を受けての安倍首相の談話の一部。

「特定の疾病や障害を有すること等を理由に、平成八年に旧優生保護法に定められていた優生手術に関する規定が削除されるまでの間において生殖を不能にする手術等を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてこられました。このことに対して、政府としても、旧優生保護法を執行していた立場から、真摯に反省し、心から深くおわび申し上げます」。

この法の施行に原告弁護団はある程度評価を示したが金額が低すぎると不満を述べ、今後も被害者を捜し出して賠償訴訟を続けていく考えを示した。

政府は「不妊手術は当時は適法だった」と主張して訴訟に反論してきたが、仙台地裁での五月二十八日の訴訟の判決を待たずに「反省とお詫び」と一時金支給を決めた。もし仙台地裁が政府の見解を否定して原告が正しいという判決を出せば、賠償金の額がはねあがる可能性がある。

弁護団が被害者捜しの努力をするのは自分の収入を増やすためであり、裁判で違法を主張するのも勝てば収入増になるからである。手口はサラ金から借金した人の仮払い利息を取り返してあげるという商売と同じである。

同じ考えの友人の荒田が言う。

「弱者救済は金になる。私が弁護士ならつぎの狙いは〝赤紙〟だね。徴兵制で兵隊にされた人が何百万人もいる。本人の意思に反して強制的にだから人権無視だ。給料や恩給をもらっていたが微々たるもの。韓国で騒いでいる徴用工訴訟と同じ時代だからまだ間に合う。集団で訴訟を起こせば、政府は『反省とお詫び』をして一時金を支給してくれるかもしれない」。

ポリコレはじわりじわり時間をかけて細菌が体を蝕むように人を腐らせる。日本は腐りつつある。みんなが腐れば戦争に負けて国が滅びるのと同じ結果になる。

 

 

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